今年は日本が1870年に初めて国債を発行してから150周年を迎えた年に当たる。その国債の主幹事を務めたシュローダーは、日本にオフィスを開設して46年目となり、グローバルでの運用資産残高も70兆円を誇る、英国ロンドンに本拠地を持つ資産運用グループだ。近年は世界の機関投資家が重視するESG(環境・社会・ガバナンス)投資のエキスパートとしても注目される存在になっている。シュローダー・インベストメント・マネジメントの執行役員 日本株式運用 副責任者 荒井卓氏(写真:左)と同社ESGグループ グループリーダー 工藤まゆみ氏(写真:右)に、シュローダー・グループのESG投資について聞いた。

 ――コロナ禍でESG投資に特に注目が集まっています。この理由は?

荒井 コロナウイルスの感染拡大は、企業にとっては大きな環境変化になりました。従業員は日々の生活に大きな不安を抱えるようになり、経営陣が従業員の不安をどのように和らげることができるのか、あるいは、それを乗り越えて、どのように企業の生産性を高めることができるのかなど、そこに経営陣の力が重要視されるようになってきたと考えています。

 具体的には、「シュローダー日本株ESGフォーカス・ファンド」のパフォーマンスは、コロナショックで大きく下落した3月以降に株価が戻る過程で、TOPIX(東証株価指数)を大きく上回るリターンをあげることができています。ESGを重視した企業の評価が高まっていることが背景にあると思います。

 ――シュローダーでは最近、世界の個人投資家を対象とするESG投資に関する意識調査を行ったということですが、その結果はいかがでしたか?

工藤 2020年4月下旬から6月中旬にかけて、世界32の国と地域の個人投資家2万3千人以上を対象に独自のオンライン調査を実施しました。この調査の時期は、まさに世界中で新型コロナ危機が深刻化していた時期に重なっています。ESG投資は、余裕のある時に行う一種のし好品のような捉え方をされている部分もありますが、今回の調査は、大きな社会的ショックの中でも投資家がESGについて考えていることを知ることができました。

 まずは、世界の投資家の77%は「個人的な信条に反する投資をしたくない」と思っていることが分かりました。また、世界の投資家の半数近くはESG投資を美徳と考えていて、高いリターンが期待できないという考えからESG投資に魅力を感じないと考えている人は少数です。

 そして、投資家の方々は、日々の活動が、地球環境や地域社会に対して及ぼす影響についてかつてないくらいに関心が高くなっています。ESGファンドに投資している人は47%で、2018年の調査から5ポイント高くなっています。

 ――欧州におけるコロナへの対応について教えてください。

工藤 欧州では政府や産業界でも新型コロナ危機からの回復局面で、より環境や社会への配慮を鮮明にするようになっています。

 EU(欧州連合)は、資本市場から7500億ユーロ(約88兆円)を調達し、「次世代EU」という復興基金を創設し、再生可能エネルギーのプロジェクトや電気自動車の充電ポイントの拡充等に投資することを決めました。EU加盟国の産業及びEU域内市場担当の閣僚会議は、6月11日に新型コロナウイルス・パンデミックからの経済支援策でグリーンリカバリーとデジタル・エコノミーを重視することで一致しています。また、英国では大手企業など206社が英政府に対してグリーンリカバリーを求める共同声明を発表しました。

 ――シュローダー・グループのESGの取り組みは?

工藤 運用部門ではESGの観点を加味した運用をグローバルで実践しています。

 シュローダーの取り組みは国連責任投資原則(PRI)からも評価され、6年連続で「A+」という最高評価をいただいています。年間1750以上のエンゲージメント(建設的対話)を57カ国で実施しています。また、20年にわたりESG項目を運用プロセスに組み込んでおり、ロンドンのESG専任チームをはじめ世界の主要拠点にスペシャリストを擁し、独自の分析ツールの開発に携わるなど高い専門知識を有しています。

 シュローダー・グループで最初のESG専任担当を任命したのは1998年にまでさかのぼります。2007年には国連責任投資原則(PRI)に署名し、株式だけでなく、債券や不動産など様々な資産クラスにおいてESGの取り組みを拡大しています。2016年には日本株式とアジア株式のサステナブル運用戦略を設定しました。2017年、2019年に相次いで独自の革新的な分析ツールを開発しています。

 シュローダー・グループは、投資を通じてよりよい未来への貢献をめざしています。また、経験に裏打ちされたESG運用力があります。20年を超えるESG投資の経験のもと、独自の革新的な分析ツールを活用してESG投資の深化をめざしています。そして、ESG投資の高度化を推進しています。ESG投資の高度化を推進するため、お客さまのサステナブル投資に関する課題解決の支援、独自ツールを活用したESG投資のインパクトの評価、社会全体に向けた情報提供など、活動は多岐にわたっています。

 ――日本では最近になってESGへの関心が高まってきた背景は?

荒井 日本におけるESGは、安倍前政権、そして、世界最大の機関投資家であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が主導的な役割を担ってきました。

 日本では2014年2月にスチュワードシップ・コード(受託者責任を果たすための行動規範)が策定され、2015年に日本版コーポレートガバナンス・コード(企業統治/コーポレートガバナンス実現するための原則・指針)が策定されました。両コードは改訂を重ねており、2020年3月のスチュワードシップ・コードの再改訂においては、運用会社はESGを重視しなければならないことが明記されました。

 GPIFは2015年に国連責任投資原則(PRI)に署名し、当時の安倍首相がニューヨークにおける国連サミットで、そのことに言及しました。それ以降も、GPIFは日本株式のパッシブ運用でESG運用を開始するなど、ESGの流れが大きくなっています。

 そして、安倍前政権は最も重要な政策目標として「経済成長を引き上げ」と「デフレからの脱却」を掲げました。経済成長を引き上げるためには生産性の改善が不可欠であり、また、デフレ脱却には政治的にしっかりコミットしました。このような背景と株式持ち合い比率の低下と日本企業のグローバル化という構造変化があり、日本でのガバナンス改革が進展しました。

 日本株式市場では、既に外国人投資家の保有比率が30%程度に高まり、日本株式の最大の保有主体になっています。また、主に年金基金の保有である信託銀行の保有比率も高くなっています。これと対照的なのが銀行や保険による保有減です。かつては、銀行や保険会社が物言わぬ株主として株式を持ち合っていましたが、現在はそれが解消されました。一方、外国人投資家や年金基金が大きな保有者となったことで、大きな市場の規律をもたらしています。

 ――ESG投資でリターンが生まれるということがイメージしにくいのですが、この点はいかがでしょうか?

荒井 ESGは企業の将来の利益にとって非常に大事な要素になります。ESGの課題解決は、企業を取り巻く関係者との関係構築であると考えます。お客様、取引先、地域社会、従業員などといった、いわゆるステークホルダーとの関係をバランス良くすることで、長期的に利益を成長させることができます。投資家にとっては、全体として企業の利益が大きくなることで、株主としての利益も増えると考えます。

 ――シュローダーがESGの観点を加味して運用する「シュローダー日本株ESGフォーカス・ファンド」の特徴は?

荒井 シュローダーの日本株運用チームは、ファンドマネージャー、アナリストが合計15名のチームです。運用経験年数は平均21年と長く、在籍年数も14年で長く一緒に働いている仲間が多くいます。受託運用残高は約1.3兆円で、国内外の投資家の皆様から日本株式運用を受託しています(2020年8月末現在)。

 シュローダーの日本株運用の強みは、グローバルで調査を行っているESGチームやそれ以外のグローバルのリサーチチームと連携していることです。日本企業もグローバル化し、日本企業の海外でのビジネスの現状なども把握したうえで分析することが重要な情報になっています。(情報提供:モーニングスター社)