猛威を振るった新型コロナウイルスによるパンデミックも、ここに来てやや沈静化し、世界的に経済回復の動きがでている。とはいえ、リーマンショックをはるかに超える規模の経済的なダメージが地球規模で起こっており、これからの世界経済がどんな方向に向かうのか、極めて不透明な時期に差し掛かっていると言って良いだろう。とりわけ、懸念される感染拡大の第2波、第3波が発生したときに、為替市場など金融マーケットにどんな影響を及ぼすのか・・・。外為オンラインアナリストの佐藤正和さん(写真)に6月の為替相場の行方をうかがった。

 ――米国が中国に対して香港の優遇措置廃止などを表明しましたが、その影響は?

 トランプ米大統領は5月29日、中国による香港への統制強化を可能にする「香港国家安全法」の導入に対抗して、これまで香港に認めていた関税や渡航の優遇措置の廃止を表明しました。同時に、留学生の入国規制などなど、厳しい対中制裁を宣言しました。

 実行に移されれば、3兆円とも言われる香港経由の中国からの対米輸出に大きな影響が出ることになり、中国経済、香港経済はむろんのこと米国企業にも大きな影響が出ると予想されます。さらに、香港の自治の侵害にかかわった人物にも制裁を加えるとしています。加えて、WHO(世界保健機構)に対しても必要な改革を実施しなかったとして関係を断絶すると表明しています。

 米中関係は新しい局面に入ったと言って良いでしょう。新型コロナウイルスの影響に加えて米中関係悪化という悪材料が加わったことになり、今後の動向に注目したいものです。

 ――なぜ株式や為替は落ち着いているのでしょうか?

 米国の新規失業保険申請件数は5月23日終了週の1週間で212万3000件(米労働省発表)に達し、ピーク時よりは減少したものの、この2カ月半で4000万人超の新規失業者が誕生したことになります。4人に1人が失業したことになり、1930年代のザ・グレート・リセッション(大恐慌)全体で発生した失業者数とほぼ同水準に並んだと報道されています。

 にもかかわらず、世界の株式市場は上昇し続けており、為替市場でもユーロや豪ドル、英国ポンドなどは底をつけて、対ドルで上昇しつつあります。その背景には、各国政府や中央銀行による財政出動や金融政策が歴史的な規模となっており、市場に大量の流動性(資金)が供給され、株式市場などにマネーが流入し、安定していると考えられます。為替市場も全体的なトレンドはドル売りとなっていますが、大きなボラティリティ(変動幅)にはなっていません。

 とはいえ、ここに米中関係悪化の要素が加わるわけですから、経済に与える影響は大きいかもしれません。何がおこるかわからない、そんな意識をもっていた方がいいと思います。

 ――そんな状の中で「G7」が6月から9月に延長される見通しですが、その影響は?

 米国は、3月~4月にかけて新しい感染症による経済対策として3兆ドル(約320兆円)、GDPの12%にも相当する政策を打ち出しています。金融市場は、こうした経済対策を好感して株価も上昇しているわけです。

 一方のEU(欧州共同体)も、補助金と融資からなる復興ファンドで7500億ユーロ(約89兆円)の基金創設を発表しました。加えて、ドイツでは景気の底入れを示唆するような経済データが発表されており、2ヶ月ぶりにユーロが上昇傾向を見せています。

 日本政府も、117兆円の第1次補正予算案に加えて、32兆円の第2次補正予算案の策定を急いでいます。日本銀行も、思い切った政策をとる余地が狭まっているものの日本国債の買入れを無制限にするなどの対応を取っています。

 こうした状況の中で、世界が一丸となってパンデミックに立ち向かう姿勢が期待されていたのですが、トランプ大統領は6月に予定されていた「G7サミット」延期の意向を示しました。

 リーマンショックでは、先進7カ国がリーダーシップを取って、そこに中国が加わって世界の景気後退を食い止めるシナリオでしたが、今回は米中関係の悪化を見てわかるように各国の結束は望めそうもありません。アメリカファーストを打ち出すトランプ大統領のもとでは、世界は結束できないのかもしれません。G7の9月延期というニュースも、ロシアやインド、韓国などを参加させるといった報道もあり、よく見ると「中国外し」のサミットなのかもしれません。

 ――新型コロナウイルスの第2波、第3波が心配されていますが、為替への影響は?

 日本でも、すでに北海道や北九州市では、第2波と思われる感染拡大が進行中ですが、日本だけではなく世界中が感染拡大の再燃という共通の課題に直面するときが来るかもしれません。

 やっと経済が回り始めた現在、もう一度「都市封鎖」や「外出自粛」と言った措置が取れるかどうか・・・。今回のパンデミックの被害をどの程度に抑えられるかが問われることになります。第2波以降の感染者数や死者数次第で、経済政策もまた大きく変化する可能性があります。

 そうした状況の中で不安になるのは、やはり「円高」です。1ドル=107円近辺で小幅な動きにとどまっていますが、1ドル=106円を切って来るような円高の局面になったときには、大きな変動を覚悟した方がいいかもしれません。さらなる円高が進む可能性が出てきます。

 ――6月の各通貨の予想レンジを教えてください。

 このまま新型コロナウイルスが世界的に収束に向かうかどうかで、6月相場のレンジは大きく異なってくると思われますが、とりあえずは次のようなレンジで推移するのではないかと考えています。 

●ドル円・・1ドル=106円-108円50銭
●ユーロ円・・1ユーロ=117円-121円
●ユーロドル・・1ユーロ=1.08ドル-1.13ドル
●ポンド円・・1ポンド=127円-133円
●豪ドル円・・1豪ドル=68円-72円

 ――6月相場で注意する点を教えてください。

 やはり6月相場も極めて不透明な相場になりそうです。米国ではすでに10万人の死者数が出ていますが、経済的な影響がどこまで出て来るのか注視する必要があります。現在、ドル円相場は大きな動きのない相場になっていますが、逆に突発的、瞬間的に大きな変動幅になるのか分からない状況と言ってもいいでしょう。

 こういう不透明な相場では、やはり小まめな売買を心掛け、大きなポジションを持たないことが原則になります。今は、どちらかというと「次への準備期間」と考えて、慎重なトレードを心がけましょう(文責:モーニングスター編集部)。