新型コロナウイルスの蔓延によって経済活動が停滞し、日本の株価も混迷の度を強めている。株価の下落はいつ止まり、回復の見込みはあるのだろうか? アセットマネジメントOneの日本株式担当ファンドマネジャーとして「DIAM 新興市場日本株ファンド」「厳選ジャパン」などの運用を担当している岩谷渉平氏(写真)に、現在の株式市場の見方と将来の見通しについて聞いた。

 ――今年1月には2万4000円台だった株価が一時は1万6000円台に下落しました。日々の株価変動率もかつてなく大きくなっていますが、これまでにない変化が市場に起きているのでしょうか?

 株価は、企業業績と金融市場の状況との、2つの変数から決まると考えることができます。 たとえば、企業業績はそれほど変わらない見通しなのに、株価が急激に落ち込んだり、いつのまにか元に戻ったり。その逆に、企業業績は当分、悪くなりそうなのに株価だけが反転しはじめるといったことがあり、株価は、企業業績と金融市場の状況との、2つの変数から決まると考えることができます。

 ここもとの株式市場では、たしかに企業業績に注目しているだけではなかなか説明しづらいほどの激しい値動きがみられました。

 1-3月の急激な下落を誘発したのは、ひとつには金融市場の状況があったとみています。特に、景況感が悪化する想定もあって原油価格が下落したことなどから、クレジットクランチ(信用収縮)のようなものが起き、金利も上昇しました。

 これに対して、内外金融政策当局は、さまざまな緩和措置を講じました。特に3月下旬には米国財務省およびFEDが企業クレジット市場に手当を講じたあたりが重要な変化点であったとみています。

 株価を決める企業業績と金融情勢のうち、後者はなんとか落ち着きを取り戻し始めています。しかし、これは企業業績が回復する具体的な算段はたたないにもかかわらず、株価だけは先んじて安定したように感じられる状態であると見ています。

 もちろん引き続き、企業業績がもう一方のファクターです。3月、4月と、企業の業績開示をうけて、いまいちどすわりのよい株価が算定されていきます。そこでは、「果たしてこの業績は(パンデミックによる)一時的なものか? あるいは将来的にも継続するとみるべきか?」、あるいは、「すでに構造変化が起こり、あらたなステージにシフトしたととらえるべきなのか?」などといった洞察が織り込まれていくことになります。ここもとの株式市場では、たしかに企業業績に注目しているだけではなかなか説明しづらいほどの激しい値動きがみられました。

 ――株価は総じて下落しましたが、その中で気になる動き等はありますか?

 個々の株価の動きを見ていると、株価下落に抵抗力がある銘柄、下落からいち早く立ち直っている銘柄などが数多くあります。スーパー、生活用品、ドラッグストア、あるいは、動画を使ったサービス、教育関連の動画サービスなどです。また、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために休校や自宅待機、移動制限などが課されていることで、リモートワークに関係するサービスなども動き始めました。

 日本では、「働き方改革」ということが数年前から言われ、生産性を向上させる取り組みが様々に模索されてきましたが、今回の騒動で、在宅勤務やフレックスワークが一気に進んでいます。

 もとより少子高齢化への対応や生産性の向上という問題は、これから日本が取り組むべき重要な課題でした。このような日本の構造的な変化に対応する企業群は、この新型コロナウイルス問題を足掛かりに、社会課題を解決し、結果として事業を成長させ得る企業群になるのではないでしょうか。ウイルスの蔓延という問題は、今回限りではありません。次の冬には別のウイルスが蔓延するかもしれません。ですので、こうした取り組みは、不可逆な構造変化といえます。

 ――この環境下で、投資家は、どのように動くべきだと思いますか?

 株価が30%程度下落したことは、大きな衝撃です。既に株式に投資しているみなさまは、株価下落によって資産価値が目減りしますからどうしても悲観的になってしまいます。ですが、現金・預金を持っている方にすれば、株価が30%下落したことは、日ごろ行くスーパーで、陳列されている商品の価格が30%引きになっている状況と考えることもできます。個人投資家のみなさまの購買力は相場が崩れる以前に比べて上がっているのです。これをマクロでみれば、日本の家計の金融資産約1900兆円のうち、株式等は約211兆円、投資信託は約74兆円で、合計しても全体の15%程度であり、現金・預金にある1008兆円はむしろ購買力を増しています。

 家計の投資比率が高いアメリカと日本の状況は違います。もちろん、公的年金は株式で運用していますし、企業年金なども悪影響を受けていることは事実なので、家計の金融資産の現金比率が高いことを取り上げて日本の家計は大丈夫だということはできません。ただ、キャッシュを持っているのであれば、目の前に大幅に割引された商品が並んでいるのですから、良いものを選んで購入しようと動いても良いと思います。

 また、既に投資している方々は、内容の良い企業は、この混乱の中でも着実に手を打っていることをいまいちど思い出してほしいです。なにより、日本の生産性向上や働き方改革に貢献する企業群にとっては事業環境がよりよくなっています。そのような企業の株価は戻り始めたり、そもそも株価がしっかりしていますので、新型コロナウイルス問題が沈静化して市場が落ち着くと株価の回復も速いと思います。

 一方、構造変化に伴って淘汰されてしまう負け組の企業に投資している場合は、損切りもやむを得ないと思います。見誤ったことを認めることは辛いことですが、それを分かっていながら持ち続けていると次の局面への備えもできません。

 私もファンドマネジャーとして、運用しているファンドの投資銘柄の現状を細かくチェックしていますが、保有を継続するもの、銘柄の入れ替えを考えなければならないものそれぞれに抱えています。損切りの判断は厳しいものですが、見誤ったことを認めて次のチャンスに活かしたいと考え行動しています。

 ――当面の日本株式の見通しは?

 株価指数そのものは、下げ過ぎの反発はあっても、継続的な上昇は期待できないと考えています。日本のGDPが横ばいの見通しですから、株価だけが値上がりするということは考えにくいです。

 3月19日に安値を付けて反発し、再び下落に転じた現在は、いわゆる2番底を見に行く動きになっているといえます。しかし、今後は、治療薬やワクチンなどの開発の情報も出てくるでしょうし、免疫力に関する情報も出てくるなど、新型コロナウイルスの感染拡大の問題は徐々に沈静化すると考えて良いのではないでしょうか。断言はできませんが、ここから大崩れする心配はないと考えます。

 それよりももっと大切なことがあると考えています。それは、過去に起こった大ショックを経て、人類社会・経済はより強靭にバージョンアップされてきたことです。たとえば、2002年にSARSが中国で蔓延した時には、外出が制限されて中国国民は買い物に困ったのですが、そこからEコマース(電子商取引)が発展し、アリババなどが成長しました。また、2011年の東日本大震災の時には、電話が通じなくなって安否確認をツイッターやフェイスブックで行うということがあり、その後のSNSの発展につながりました。

 17世紀にニュートンが万有引力の法則を発見するきっかけになったといわれるリンゴが木から落ちる話も、当時の欧州で大流行した黒死病(ペスト)を逃れて避難した郊外の避難先での出来事といわれています。また、この疫病から避難した当時にニュートンは微分積分の発見など重要な成果を挙げたそうです。いま身の回りで起きている動きのなかにも、後から振り返れば、次の時代を拓く重要な出来事だったとされるものがあるはずです。

 少子高齢化が進む日本では、働き方改革や医療・教育・行政の効率化は避けて通れない課題でしたが、問題が大きくて動きにくい分野でもありました。それを強引に動かすきっかけになっているのが、今回の新型コロナウイルス感染の拡大です。このように大きく長引いた社会課題が解決するときの潜在市場は巨大です。日本社会の効率性が高まれば、日本経済や日本株式の価値はあがり、高いリターンをもたらすものとみています。感染拡大で外出を控え、人と会うことも避けるように言われることは気持ちをふさがせますが、その中にあっても新しい動きは着実に進んでいます。その動きをしっかりととらえ、受益者のみなさまにリターンをお返しする。これが期待される役割であると考えています。(情報提供:モーニングスター社)