米中貿易交渉が長引く中で、部分合意とはいえ妥結の兆しが見えてきたことで、金融市場はリスクオンに移行しつつある。そんな中でFOMC(米連邦公開市場委員会)が、今年3回目となる金利引き下げを決定。米国株は上昇し、米ドルも買われている。その一方で、トランプ大統領の弾劾裁判が新たな局面に進むなど、政治的な局面でも変化が見える。相変わらず不透明な相場だが、外為オンラインアナリストの佐藤正和さん(写真)に11月の為替相場の行方をうかがった。
 
 ――FOMCが今年3回目の利下げを実施しました。その影響は?
 
 10月29日-30日にかけて行われたFOMCで、FRB(米連邦準備制度)は米国の政策金利であるFF(フェデラルファンド)金利の誘導目標を0.25%引き下げると決定しました。金利の引き下げは、 前回の8月に続いて今年3回目となります。
 
 FOMCの声明文によると、ここ数カ月の雇用の伸びは概ね堅調であり、失業率も低水準。家計支出も力強いペースで伸びているものの、企業の設備投資と輸出が弱いままであり、食品・エネルギーを除く物価上昇率も2%を割り込んでいるため、金利引き下げに踏み切ったと説明しています。
 
 これで、7月、9月に続く3会合連続の利下げに踏み切ったわけですが、パウエルFRB議長はFOMC後の記者会見でも、先行きの金利政策を「適切に見極める」という表現にとどめており、利下げは一旦停止という考えを示唆しました。 
 
 ――FOMCでは二人の理事が利下げに反対したと報道されていますが・・・?
 
 確かに、FRB理事の間でも米国経済の見通しには意見が分かれているようです。米シカゴ購買部協会が10月31日に発表した10月の景気指数(PMI)では、前月比3.9ポイント低下の43.2でした。2カ月連続で景気の節目となる50を割り込み、2015年12月以来30カ月ぶりの低水準に落ち込みました。とりわけ新規受注の悪化が目立ち、製造業が米中貿易戦争で疲弊していることが見えます。
 
 ちなみに、1日に発表された10月の「米ISM製造業景況指数」は48.3と、3カ月連続で50を下回りました。ただし47.8だった9月よりは改善。ISM(米供給管理協会)は、10月からは改善したもののセンチメントは楽観的というより慎重な見方が続いていると指摘しています。
 
 もっともその一方で、この11月1日に発表された10月の米雇用統計では、堅調な数字が出ており、非農業部門の就業者数は前月比で12万8000人増えたと発表されました。自動車関連のストライキで10月の18万人増には届かなかったものの、市場予測の9万人増を大きく上回りました。貿易戦争の逆風下でも雇用は堅調さを保っていることが示された形になりました。
 
 ――米国景気はいいのでしょうか? 為替市場への影響は?
 
 やはり、米中貿易交渉の行方が未だに不透明なところが重石になっているのだと思います。チリで開催予定だったCOP25で、トランプ米大統領と習近平中国国家主席が直接会って、部分的にせよ合意に達して調印するのではないかと言われています。
 
 ただ、FRB内部でもタカ派とハト派が分かれている状況ですが、金利の引き下げによって円安圧力がかかっているのは事実です。ドル円相場は、金利引き下げの影響で一時的に1ドル=109円21銭までドル高が進行。その後108円台まで戻りましたが、雇用統計の好調さなどもあり、今後もドル高圧力がかかってくるのは間違いないと思われます。
 
 こうした影響を受けて、日本銀行の金融政策決定会合がFOMCと前後して行われましたが、当初予想されたマイナス金利の深堀りや追加緩和は実施されませんでした。黒田日銀総裁は、金融政策決定会合後の記者会見で「マイナス0.1%で、これ以上深掘りできないことはない」という微妙な言い回しで、必要があればマイナス金利の深堀りができることを示唆しました。
 
 政策金利のフォワードガイダンス(指針)も、これまでの「少なくとも2020年春ごろまでに」という明確な表現を削除し、現在の金利水準もしくはそれ以下の金利が「かなり長く続く」 との見解を示しました。
 
 消費税率アップの直後だけに、市場関係者の間ではマイナス金利の深堀りといった追加緩和があるのではないかと予想されていましたが、今回もフォワードガイダンスの修正といった微調整で終わったことになります。
 
 ――10月末に予定されていた英国の合意なきEU離脱もなんとか回避しましたが?
 
 もめにもめてきた英国のEU離脱(ブレグジット)も、何が何でも10月31日に離脱すると宣言していたジョンソン英首相ですが、EU側が延期の延長を認めたこともあり、12月12日に総選挙を実施することでとりあえずの危機を出したと言っていいでしょう。
 
 総選挙実施に反対していた最大野党・労働党も「合意なきブレグジット」のリスクを回避した形になりました。EU離脱を有権者に問う事実上の「国民投票」ということになり、その結果がどう出るか注目したいところです。
 
 ECBのドラギ総裁が10月に退任したことで、11月から新しい総裁の下でスタートすることになりますが、大きな変化は無いものと思われます。むしろ注目したいのは、イランとサウジアラビアの地政学リスクやクルド人問題で揺れるトルコ軍の動向でしょうか。
 
 ――10月の各通貨の予想レンジを教え置てください。
 
 米中貿易戦争や中東の地政学リスクなどなど、金融マーケットのボラティリティ(変動幅)をあげるファクターは数多く残っていますが、最近はあまり為替市場に大きな影響をもたらすことが少なくなってきました。様々なリスクが断続的に続いており、金融マーケットも慣れてきたのかもしれません。
 
 とりわけドル円相場は、今年の1月からの動きが1ドル104円46銭から112円40銭と非常に狭いレンジで動いています。米国の政策金利引き上げにも、瞬間的に109円台に到達した程度でまた元に戻ってしまいました。とはいえ、金利差が拡大したことでドル高傾向は依然として高いとみて良いと思います。11月の予想レンジは次の通りです。
 
●ドル円・・1ドル=106円50銭-109円50銭
●ユーロ円・・1ユーロ=116円-122円
●ユーロドル・・1ユーロ=1.09ドル-1.13ドル
●ポンド円・・1ポンド=136円-142円
●豪ドル円・・1豪ドル=72円50銭-75円
 
 ――11月相場の注意点を教えてください。
 
 やはり全体的なトレンドとしては、ドル高を意識すべきだと思います。チャートの動きでもドル高傾向がはっきりしてきており、今後しばらくはドル高円安のトレンドが続く可能性が高いと思います。
 
 とりわけ、米中貿易交渉の行方は気になるところです。9月1日に実施予定だった追加関税が、米中ともに12月15日に期限延長されていますが、この追加関税が実施されるかどうかが大きな鍵になってきます。11月末にチリで開催予定だったCOP25がスペインに変更になりましたが、トランプ大統領と習近平国家主席がどんな会談をするのか。注目しておきたいところです。(文責:モーニングスター編集部)。