8月1日、トランプ米大統領が突然ツイートした「中国への追加関税」発言によって、為替市場を始め世界中の株式や債券市場が大きく揺れ動いた。相変わらず「トランプリスク」が世界経済を翻弄しているが、8月相場はどんなマーケットになるのか・・・。外為オンライン・アナリストの佐藤和正さん(写真)に伺った。

 ――FOMCで米国の政策金利が0.25%引き下げられました。その影響は?

 7月30-31日にかけて行われたFOMC(米連邦公開市場委員会)で、FRB(米連邦準備制度理事会)は政策金利を0.25%引き下げました。米国の政策金利が引き下げられるのは2008年10月以来10年7か月ぶりになります。当初は0.5%引き下げられるのではないかと言う予想もあり、トランプ大統領もツイッターなどで0.25%では足りない、というコメントを出していました。

 実際には0.25%にとどまり、パウエルFRB議長の面目を保った形になりました。ただ、FOMC後のパウエル議長の発言の中に、今回の利下げは長期的な金融緩和サイクルの開始を示したものではなく、下振れリスクに対する保険を意図したもの、という説明があり、その結果ドル円相場は1ドル=109円台までドル安が進みました。

 ところが、その直後にトランプ大統領がツイートで9月1日以降、中国からの輸入品3000億ドル分(32兆2300億円)に対して、10%の関税を賦課すると発表。突然の発表で、1ドル=109円台まで円安が進んでいたドル円相場は、一気に106円台まで円が急騰してしまいました。

 ――今回の円高で円相場のトレンドは変わるのでしょうか?

 まさにトランプリスクの炸裂でしたが、米中通商協議の直後だったこともあり、市場にとっては寝耳に水の発言でした。ドル円は1日で2円以上円高に振れ、円はドル以外のクロス円通貨に対しても全面高でした。

 さらに、米国の債券市場では長期金利が大きく下落し、ビックス(VIX)指数も急上昇。原油先物市場でもWTI原油価格が4.63ドル下落、1日で7.9%も値下がりとなりました。

 こうしたボラティリティー(変動幅)の大きさは久々で、ここまでの円高は最近なかった動きです。FRBの金利引き下げ、米中貿易戦争の不透明さなど複合的な要因で、ひょっとすると「円高トレンド」の始まりになるかもしれません。そういう意味では、8月は円高に振れる可能性が高いかもしれません。

 ――8月はボラティリティーが高いと言うことでしょうか?

 米中通商交渉が意外に進展していないこと、そしてFRBの利下げが少なかったことによるトランプ大統領の苛立ちが、中国からの輸入品への追加関税という形になりました。中国政府も一歩も引かないコメントを出しており、今後はより混迷を深めるかもしれません。ただ、中国にはすでに追加関税という切り札はありませんから、別の輸出品規制などが予想され、追加関税が実施される9月1日までは予断を許さない状況と言えます。

 加えて、今後はEU(欧州共同体)に対する貿易交渉も始まるため、こちらも交渉次第では全面的な貿易戦争になる恐れもあります。日米貿易交渉については、閣僚会議が2日に行われ「かなり前進」といった発言が日本側から出ていますが、その反面で防衛費ではこれまでの5倍請求されている、といった報道が出るなど不透明感があります。

 その一方で、8月2日に発表された7月の米雇用統計では、非農業部門就業者数が前月比16万4000人となり、ほぼ市場予測通りの結果となりました。それでも、前月の19万3000人からは減少しており、今後のFRBによる追加利下げに道を開くことになるかもしれません。

 英国では、メイ首相に代わって、新たに保守強硬派のボリス・ジョンソン氏が新しい首相になりました。彼は10月末には何が何でもブレグジット(英国のEU離脱)を実行すると公言していますから、合意なきブレイクジットの可能性が濃厚になってきました。今後、しばらくは英国ポンドが売られることになると思います。

 ――今後の為替市場はどうなっていくのでしょうか?

 来年の大統領選挙を控えたトランプ大統領が、手段を選ばない方法で支持者にアピールできる政策を次々に繰り出しています。これらのことを総合すると、やはりドルが売られて円が買われるといった相場になるかもしれません。

 ドル円相場で見ると、当面は直近の最高値である1ドル=106円78銭を割り込むかどうかですが、円高トレンドの境目と言われる1ドル=105円の壁を超えてくるかどうかに大きな意味があります。105円を割り込むようなことになると、さらなる円高が考えられます。

 この他、対イランの地政学リスクや北朝鮮による3日連続の短距離ミサイル発射、そして日韓関係が最悪な状況という局面にあり、やはり8月はやや予測不能のマーケットになると考えた方がいいかもしれません。何が起きても不思議ではない状況と言えます。

 ――7月の予想レンジを教えてください。

 8月は世界中が夏休みに入るため、昔から円高になりやすい月と言われています。その兆しが早速8月1日の相場で垣間見えたわけです。これらを考慮に入れると8月の予想レンジは次のようになります。

●ドル円……1ドル=105円-109円
●ユーロ円……1ユーロ=117円-123円
●ユーロドル……1ユーロ=1.09ドル-1.13ドル
●ポンド円……1ポンド=127円-135円
●豪ドル円……1豪ドル=71円50銭-74円50銭

 ――8月相場の注意点を教えてください。

 8月相場の特徴を大きく4つに分けると――
(1)ボラティリティーが高い
(2)円高トレンドの始まりの可能性が高い
(3)毎年8月は円高傾向が強い
(4)米国国債の償還が多い

 米国国債の償還が多いということは、米ドル売りが増えることになり、どうしてもドル安円高の傾向になります。8月の3連休やお盆の直後は、毎年円高が進む傾向にあり、特に注意が必要です。

 また、8月22日から24日にかけては、米カンザスシティ連邦準備銀行主催の経済シンポジウム(ジャクソンホール会議)が行われます。世界中の中央銀行トップが集まって講演が行われます。そこで、パウエル議長や黒田日銀総裁が何を語るのかを注目しておく必要があります。(文責:モーニングスター編集部)