米国のトランプ大統領が対中関税を5月10日から25%まで引き上げると表明したことを受け、米中対立の激化を懸念して世界の株価が下落している。大和総研経済調査部エコノミストの小林俊介氏と研究員の廣野洋太氏は5月7日、「『米中冷戦』再開の政治経済分析」と題したレポート(全12ページ)を発表し、今後の米中協議の見通しとその世界経済への影響を考察した。レポートの要旨は以下の通り。
 
◆米トランプ大統領が2,500億ドル相当の品目に対し、対中関税を25%まで引き上げることを表明した。米中冷戦が激化に向かう可能性が再び高まっている。そこで本稿では、(1)背景にある政治力学を解析し、(2)世界経済への影響を網羅的に分析するとともに、(3)日本経済への含意を考察する。
 
◆【決裂の可能性が高まる米中通商協議】中国の覇権への挑戦を阻止することを目的とした米国の妨害戦略は長期的に続くだろう。その主たる手段は軍事政策だが、軍事的優位性を維持するために国力・経済力格差の維持が必須となる。ここで減税と関税が大きな意味を持つ以上、今後も長期的に通商摩擦の激化が継続する公算が大きい。
 
◆冷戦激化の長期的潮流の中で、2018年12月以降、一時的な「停戦」が行われてきた。背景には米中両国ともに、重要な選挙が控えていない期間に景気回復の「時間を買う」誘因が働いたことがある。しかし、米国は金融市場の回復に加え、財政金融政策の援軍が近づいたことから、経済的な余力を取り戻している。これにより「停戦」を前提としてタカをくくっていた中国への「先制攻撃」を再開する意欲を取り戻したと推察される。
 
◆【世界経済に与える影響の網羅的分析】米国の対中関税は、2,353億ドルの輸入品目に対して賦課される。追加関税総額は現行で305億ドルだが、25%へ引き上げられれば588億ドルとなる。なお、今回問題となる約2,000億ドル相当の輸入品目に対する追加関税については、記憶装置の部品などの電子機器の部品、携帯電話を含む電話機のウェイトが大きい。大和総研のマクロモデルを用いた試算によれば、GDPの下押し効果は中国▲0.22%、米国▲0.28%、日本▲0.02%となる。
 
◆【日本経済への含意】日本にとって最も懸念すべき問題は「二次的効果」だ。すなわち、中国から米国に輸出されている電子機器を生産するために必要となる部材や資本財の対中輸出が顕著に減少する効果である。他方、米中冷戦が深刻化するほどに同盟関係が重要となり、米国による対日関税の引き上げリスクが後退することや、米中が関税を相互に賦課することで日本における代替生産が増加する「代替効果」は、日本経済にとって言わば「漁夫の利」となりうる点にも留意しておきたい。(情報提供:大和総研)(イメージ写真提供:123RF)