米中の対立は、決定的な対立につながる3月2日の関税大幅引き上げを先送りし、3月下旬に米中トップ会談をセットする方向で交渉が継続している。大和総研の専務理事である道盛大志郎氏は3月1日、「今月の視点-一帯一路の議論のリード役に挑む日本政府 ~米中対決と多極化が進行する中での日本の生き方~ 」と題したレポート(全2ページ)を公開した。米中2強が対決姿勢を強める中、これからの日本がどのような立ち位置であるべきかを考察している。レポートの要旨は、以下の通り。
 
 2018年11月29日付の大和総研コラムで、一帯一路を材料として、米中対決下での日本の生き方について述べさせていただいた。大要、「中国の台頭への対応は難しい課題だが、最近は脅威面だけが強調されているようにも見える。中国には、貧富の格差や地域格差、我が国を上回る超少子高齢化の進行をはじめ、課題も山積している。それに、長い目で見れば、インド、アセアン(ずっと先を見据えればアフリカ?)など、嘱望される国や地域の候補は他にも控えているし、欧露なども忘れるわけにはいかない。中国突出の下での米中2強の対決というより、状況はもう少し複雑で多面的・多極的なものになっていくだろう。その中で、日本の立ち位置として、政府も民間も、したたかに、バランス感覚を持って生きていかないといけない。」と論じた。
 
 本稿はその続編である。前述のコラムでは民間の苦労について述べたので、今度は政府の番にしたい。
 
 全くの巡り合わせだが、この激変の時期に、今年G20の議長国を務めるのが我が国である。6月28、29日に大阪で首脳会議(サミット)が予定されているが、その前の6月8、9日に、福岡で財務大臣・中央銀行総裁会議が行われる。その会議の準備状況を聞く機会があった。
 
 それによると、1月に代理会合(次官クラス)が開かれ、本格的な準備がスタートしたところだそうだ。議題はいくつかあるが、中心的議題は、「持続的な成長の基盤となるよう、質の高いインフラ投資を促進すること」と、「低所得国に債務が累積している問題に対応すること」だという。
 
 「質の高いインフラ投資」としては、生産性の向上だけでなく、技術移転や能力構築など、より長期的な経済・社会への波及効果を図れるものであることが重要である、として、そのためにも、債務の持続性の確保、開放性、透明性を確保したものでなければならない、とする。
 
 「低所得国の債務累積問題」については、借り手だけでなく、官民の貸し手が債務の透明性の向上を図り、その持続可能性を確保していくことが重要である、とする。
 
 こうしてみると、一般論としての衣をまとってはいるが、何のことはない。我が国主導で、中国の看板政策である一帯一路の問題点や改善策を、G20という多国間協議の場で議論しようとするものであることが明らかだ。取りようによっては、まさに中国へのあてつけとも受け取れる。中国側の反応が否定的になるのも、想像に難くない。
 
 前述のコラムで、一帯一路の問題についての我が国の対応ぶりは、なかなかのものではないか、と論じた。アジア各国に抜きんでた存在感を示しつつある中国に対し、同盟国の米国の顔を立てる一方で、中国のライバルたり得るインドとの良好な関係を強調しながら、その看板政策への協力と牽制を同時に示してきたからだ。
 
 一帯一路への対処の仕方をめぐって惑う日本の民間企業を慮るかのように、今般、G20の場での問題提起を行ったのは、時宜を得たタイミングだし、持ち出し方も絶妙だと思う。
 
 今や中国は、軍事的にも政治的にも我が国を圧倒し、経済規模でも日本の3倍に迫ろうとしている大国だ。2国間の問題であれば、もちろん2国間協議に持ち出せようし、アジアや世界共通の課題であれば、多国間協議で議論し合えよう。しかし、一帯一路は、あくまでアジア等の途上国に対する中国固有の政策だ。その問題に対して、相当後塵を拝しているとはいえアジアの一方の雄として、正論の立場から議論を挑もうというのだから、多国間協議の議長の立場を実にうまく活用していると評価できるのではないか。中国としても、今まさに非難を浴びているところだし、突然訪れた日本との蜜月(?)を意識せざるを得ないから、何らかの対応を迫られよう。
 
 これから20~30年位のスパンを持って見れば、台頭するアジア諸国の中で、我が国の相対的位置は次第に埋没していく運命にある。今回のような試みが、その中できらりと光っていくことに繋がる。迷う途上国にとっても、悩む民間企業にとっても、有益だろう。苦労は尽きないと思うが、あと4か月の頑張りに期待したいと思う。(情報提供:大和総研)(イメージ写真提供:123RF)