日米欧の中央銀行のキーマンがハト派的な金融政策に言及する中、米中貿易協議の進展をきっかけに、株価が上昇し、「リスクオン」でドルや円が売られた。外為どっとコム総合研究所の取締役調査部長兼上席研究員の神田卓也氏(写真)は、「ドル/円は引き続き動きにくい展開が続きそうだ。前月に引き続きクロス円に動きに注目したい」と語り、世界の株価が上昇する時に価格が動きやすい豪ドルを取り上げた。神田氏の当面の見通しは、以下の通り。

 ――ドル/円は一時的に1ドル=111円台に乗せたものの、その後に反落して110円台に押し戻された。今後は一段とドル高が進むのだろうか?

 ドル/円については、111円台のドル高・円安場面があったが、これは2月中旬以降に進んだドル安の勢いを上回って円安が進んだ結果といえる。

 2月14日をピークにドルインデックスは低下を続けている。米中貿易協議の進展を手掛かりとした緊張緩和で株価が上昇する「リスクオン」のムードが高まり、ドルが売られる流れができた。円がドル以上に売られたのもリスクオンでの円売りだ。ただ、米中貿易協議の進展という材料にも材料出尽くし感が出てきており、ここから一段と米ドルや円を売り込むような動きは考えにくくなっている。

 このところ、FRBが金融引き締めについて見直しの姿勢に転じ、日銀は金融緩和の継続を改めて表明し、ECBは金融緩和の再開を模索し始めている。世界の中央銀行がハト派化したことで、株高・リスク選好の動きが強まっている。この流れが続く限り、ドル/円が大きく下げることはないだろう。

 一方、為替オプション取引のインプライドボラティリティ(IV)を見ると、向こう1カ月間の変動率が5%台半ばという2014年以来、5年ぶりくらいの低水準になっている。このことからも、市場参加者の多くがドル/円は、当面は動かないだろうとみていることが裏付けられる。ドル/円は、過去1カ月間も1ドル=110円を挟んだ狭い範囲での値動きだったが、それに輪をかけて動きにくい展開になりそうだ。

 米中貿易協議は、3月中に米中首脳会談が開かれる見通しになっているが、たとえ、トランプ大統領と習近平国家主席が会談したところで、貿易摩擦がきれいに解消されるような解決策がでてくることはないだろう。かつて、日本が米国との間で貿易問題を抱えていた時には、1960年代から90年代まで30年間にわたって協議が続いた。1年間くらいの貿易協議で、米中双方が納得できる解決策が出来上がるはずがない。協議を継続するということが、両者で確認されるにとどまると思われる。このようなどっちつかずの結論は、市場を動かす材料にはなりにくいだろう。

 季節要因として、3月末の接近で、日本勢からは円買いが出やすいタイミングだが、米国株のボラティリティを示すVIX指数も昨年10月の水準にまで低下しており、株価が大きく崩れる心配が後退しているため、リスクオフで円が買われるという動きも期待しにくい。

 当面は、1ドル=109.00円~111.50円程度の狭いレンジでもみ合うと考えている。

 ――3月末のEU離脱期限が迫り、ポンド/円の値動きが大きくなってきたが、この見通しは?

 現在のところ、ポンドのEUからの離脱期限である3月29日が延期される見通しが強まっている。離脱延期を「合意なき離脱の回避」と好意的に受け止めて、離脱延期の話題が出ると、ポンドが買われている。

 しかし、離脱延期が実現することと、英国とEUが離脱条件で一致することは別問題だ。EUが英国とアイルランドの国境問題で 譲歩する可能性は小さい。結果的に、離脱期限の延長は問題の先送りでしかないことが意識されるようになり、離脱延期でポンド高という現在の動きは長続きしないとみている。

 ポンド/円の週足チャートでは、一目均衡表の雲が過去9カ月間程度、ポンドの上値の抵抗線になっている。現在は1ポンド=148.20円程度の水準にあり、ここが当面のポンドの上値の限界だろう。雲を抜ければ心理的節目の150円前後まで上値余地は広がるが、英国とEUが離脱条件で再交渉を始めると、一致点を見出すことが難しいということが改めて浮上し、ポンドの下落につながると考える。現在、13週移動平均線が142.20円の水準にあり、ここが当面の下値の目安だ。

 ――その他、気になる通貨ペアは?

 先月も取り上げた豪ドル/円に一段高の期待がある。ドル/円や株価のボラティリティが低下し、主要な中央銀行が揃ってハト派化している今、豪ドルには活躍余地が大きいと考える。先日、米国が対中関税を25%まで引き上げることを延期したため、豪ドル/円は80円に迫る上昇を見せたが、3月中には米中首脳会談が予定されており、会談の接近を材料に豪ドルが交渉合意への期待感から買われる展開となろう。なお、トランプ米大統領は、米中通商協議を終えた2月24日に、「次の中国のニュースは1~2週間後に出るだろう」と述べている。

 日米欧の中央銀行がハト派化しているように、豪中銀も金融緩和策に言及しているが、豪ドルについては自国の要因よりも、外部要因により強く反応する性格がある。特に、中国経済の動向には敏感だ。中国の人民元が自由に売買できない関係から、その代りに豪ドルが売買される関係が出来ているようにみえる。中国では3月に全人代という重要な政治イベントがあるため、この期間中に中国経済の失速リスクは薄らぐことも豪ドルにはプラス材料だ。

 豪ドルは、昨年12月に株価が大きく下落する前は、1豪ドル=82円台だった。当面は、この水準をめざす値戻しが期待される。一方で、株安などリスクオフの動きになった場合、1豪ドル=77.50円程度への調整はあるだろう。