現地時間で12月1日に行われたトランプ米大統領、習近平国家主席の会談によって、ヒートアップしていた米中貿易戦争の行方がとりあえず交渉決裂することなく、90日間の追加関税猶予となり、最悪の事態は避けられたと言っていいだろう。当初から簡単に解決するとは予想されていなかったものの、今後さらなる交渉が続けられることになった。一方でFRB(米連邦制度準備理事会)が、政策金利引上げのスピードを弱める方向に傾きつつあることがパウエル議長の講演などで明らかとなり、今後米ドルがどのような動き方をするのかが注目される。外為オンライン・アナリストの佐藤正和さん(写真)に12月相場の行方をうかがった。

 ――米中貿易交渉は追加関税猶予で落ち着きました。今後のドル相場の動きは?

 トランプ大統領と習近平首席のブエノスアイレスでの会談に注目が集まっていましたが、結果的には米国が中国への追加関税を90日間猶予し、協議を続けることで落ち着きました。米企業への技術移転の強要、知的財産権の保護、非関税障壁、サイバー攻撃、サービスと農業の市場開放といった5分野での協議が開始されることになりました。

 90日間で合意できなければ、米国は2000億ドル分の関税率を25%に引き上げることになるため、今後も緊張感は続くことになると思われます。中国は対米貿易黒字を減らす必要があるため、農産物やエネルギー、工業製品などを米国から大量購入することになるようですが、果たして90日の猶予期間でどこまで結論が出せるかが焦点と言っていいでしょう。

 とはいえ、交渉決裂という最悪のシナリオは避けられたため、今後しばらくは米ドルが買われるトレンドとなり、株価も上昇することになるはずです。米ドルが買われることで円安となり、日本の株価も上昇することになります。

 ――12月は今年4回目となる金利引上げの予定になっていますが?

 パウエルFRB議長は、これまで「政策金利は中立からほど遠い水準にある」と述べてきましたが、11月28日に行われたニューヨークでの講演で「政策金利は中立をわずかに下回る」と発言し、金利水準が適正なものに近づきつつあることを示唆した形になりました。

 これまでの「2019年に3回、2020年に1回」実施する予定だった政策金利引上げのスケジュールは、見直す可能性が出てきたわけです。この発言を受けて、米国株式市場はダウ平均で500ドル以上の株価を上昇させました。

 金利引上げのスピードが緩和される、もしくは打ち止めが近いと市場は見たわけですが、12月14日のFOMC(連邦公開市場委員会)で、0.25パーセントの金利引き上げは確実視されています。すでに、市場は織り込み済みと言っていいでしょう。適正な金利水準の目安となる「中立金利」に近いと認識はしたものの、今後の経済データ等によっては柔軟的であり、少なくとも年内の金利引上げのスケジュールに変化はないと思われます。

 ――FRBが「ハト派」に切り変わったということでしょうか?

 29日に発表された11月7-8日に行われたFOMCの議事録でも、パウエル議長だけではなく、FRBの理事会全体が利上げに関してより柔軟なアプローチを考えていることが確認されました。

 政策金利引き上げに対して、やや消極的な姿勢を示し「ハト派」への姿勢が鮮明になってきたと言っていいでしょう。従来の政策金利引き上げのスピードを緩めることは、FRB全体のコンセンサスと見ていいのではないでしょうか。

 米中の貿易交渉が「トランプ・習近平会談」によって、一応「90日間の追加関税猶予」という合意を見せたことで、米ドルは買われ、株価も上昇が期待されます。

 ――「ブレグジット」が正念場を迎えていますが・・・?

 欧州では、英国のEU(欧州共同体)離脱=ブレグジットの期限に近づいており、英国政府とEUの間で基本合意に達したものの、英国の議会が認めるかどうかが焦点になっています。またEU議会でも承認がえられるかどうか注目されており、2019年3月までという期限も迫っており、最悪の場合は「同意なきブレグジット」への懸念が高まりつつあります。

 英国では、下院通過は難しいのではないかという観測もあり、場合によってはメイ首相の退陣や総選挙が実施される可能性も示唆されています。英国ポンドの乱高下が今後予想されるかもしれません。

 さらに、イタリアの財政問題もEUの結束に大きな影響をもたらすのではないかという懸念が広がっており、ユーロの売り材料になる可能性もあります。ブレグジット同様に注目したいところです。ちなみに、ECB(欧州中央銀行) が実施してきた「テーパリング(量的緩和縮小)」は12月で終了。次のステップである金利正常化へ向けて進むことになります。米国との貿易交渉などの影響が出ており、早くても来年の秋以降になるのではないでしょうか。

 ――12月の予想レンジを教えてください。

 12月相場のポイントは、何と言っても米中の貿易戦争の行方と米国政策金利引き上げのスケジュールがどういう形になるのか・・・。この2つが大きくポイントになります。日本については、とりあえず2019年1月から「TAG( 日米物品貿易協定)」の交渉が始まります。日本としてはF35戦闘機を100機購入することで、自動車への関税引き上げを回避したい意向ですが、2019年1月から始まる日米貿易交渉がどんな形で解決するのか。今後の動向に要注目です。

 例年通りであれば、欧米の投資家は12月後半からクリスマス休暇に入ってしまうために、プレイヤーが少なくなり流動性が減少し、しばしばボラティリティ(変動幅)の大きな相場になる可能性があります。年末年始は実需でドル高になる傾向もあり、12月後半は慎重な投資スタンスが必要かもしれません。相場の予想レンジは次の通りです

●ドル円・・1ドル=111円-115円
●ユーロ円・・1ユーロ=125円-130円
●ユーロドル・・1ユーロ=1.15ドル-1.45ドル
●ポンド円・・1ポンド=140円-148円
●豪ドル円・・1豪ドル=80円-85円

 ――12月相場の戦略上、注意したい方がいいことは?

 このまま12月も大きな変動がなければ、ドル円相場は1年間のレンジが1ドルあたり10円以下になります。極めて変動幅の少ない相場だったことになりますが、株価が大きく乱高下している中でも、為替市場は大きな変動ありませんでした。それだけ売買の難しい時期だったとも言えます。

 とはいえ、金融市場ではどんなことがあるか先行きは不透明です。米中首脳会談があのような形で終わったとはいえ、猶予期間はわずか90日。そして、常に話題を提供しようとするトランプ米大統領の政治姿勢の影響で、年末にかけても何が起こるか予想は難しいと思います。

 クリスマス休暇が始まる12月後半は、マーケットの動向を注意深く見ることが大事だと思います。(文責:モーニングスター)。