2018年も残すところ約1カ月となった。年末を迎えて、米中首脳会談や英国議会でのブレクジッドに関するEUとの合意に関する審議など、為替市場を左右しそうな大きな動きが続いている。外為どっとコム総合研究所の取締役調査部長兼上席研究員の神田卓也氏(写真)は、「今年は、年末には1ドル=117円~118円の円安を予想していたが、どうやら115円にも届かないことになりそうだ。米ドルと日本円が同じ方向に動くケースが増えた。したがって、当面はドル/円で大きな動きは期待しにくい。年内は英ポンドが大きく動くだろう」とみている。神田氏の見解は以下の通り。
 
 ――月末に米中首脳会談が予定され、米中貿易摩擦のこれからの方向性が明らかになるとみられるが、これがドル/円に与える影響は?
 
 11月のドル/円の変動幅は、1ドル=112.31円~114.20円と、わずか1円90銭くらいの値幅しかない。このままなら、月間の変動幅としては年内で最小になる 。これは株安や原油安から来るリスク回避の避難先として米ドルと円が同じように買われるためだ。リスク回避ムードが高まると、ユーロや豪ドルなどに対して米ドルや円が買われる。逆に、リスク選好ムードが高まると、米ドルも円も売られるという動きになっている。したがって、ドル/円は動きづらい状況になっている。
 
 今年は年初に、1ドル=117円~118円に向かって円安が進む1年になるだろうと見通していたが、これほど、ドル/円に方向感が出なくなってしまうと、年内に1ドル=115円を超えて円安になることも難しいと感じている。
 
 市場リスクに対するドルと円の方向性が同じだという状況を考えると、月末の米中首脳会談もドル/円にとっては大きな影響がないのではないだろうか。貿易問題がこじれるとドル高に振れやすい一方、リスク回避で円も買われやすい。合意できればリスク選好の円売りが見込める一方、ドルも売られる公算が大きい。
 
 会談の結果は、終わってみないと分からない面はあるが、ツートップの交渉が行われる以上、なんらかの合意が前提である可能性が高いと見るのが普通だろう。とはいえ、なによりも面子を重んじる中国としては、無条件降伏というわけにも行かない。そう考えると、今回の交渉では「玉虫色」の合意で、協議継続を確認するという流れになるのではないだろうか。そうなれば、ドル/円への影響は自ずと限られるだろう。
 
 むしろ、ドル/円にとっては、12月18日、19日に開催される米FOMCの結果の方が影響は大きいと見ている。市場では、2019年に米景気がピークアウトするとの見方がくすぶり始めた。このため、FOMCは来年にも利上げを休止するとの見方が出始めている。声明と同時に発表される経済・金利見通しで、FOMCの見解を確認したい。従来、3回としていた2019年の利上げ見通しに変化があれば、材料視される公算が大きい。ドル/円に関しては日米長期金利差が決め手になるケースが多いため、FOMC後も米10年債利回りが3%台を維持していれば、ドル/円相場を下支えすると見られる。
 
 FOMCを何事もなく通過すれば、年末に向けてドルが買われやすい環境の中で、緩やかなドル高が継続するものと予想する。当面の予想レンジは、1ドル=112円~115円。よほど想定外の出来事が出来しない限り、節目である1ドル=115円を超えて円安が進むことは考えにくい。
 
 ――ユーロが問題山積だ。11月に1ユーロ=1.12ドル近辺まで下がった後、1.13ドルまで戻ってきたが、今後、1.12ドルを割れて一段安になる可能性は?
 
 1ユーロ=1.12ドルを超えて、ズルズルとユーロ安が進むことはないと考える。それは、現在のユーロ圏でインフレが強まっているためだ。ユーロ圏の10月のCPI(消費者物価指数)は2.2%、ドイツでは2.5%になっている。ここで一段とユーロ安が進めば、インフレを一段と進めることにもなりかねず、ECB(欧州中央銀行)としては、これ以上、ユーロ安を進めたくないと考えていると思う。
 
 ECBは、歴史的にはドイツ連銀の流れをくむ強烈なインフレ・ファイターの血統を引き継いでいる。それは、リーマンショックのさ中であっても、インフレを抑えるために利上げを決断するという行動にも表れている。したがって、ユーロ安局面では、多くのメンバーから金融政策正常化などのタカ派的な発言が出やすくなると考えられる。当面は、1ユーロ=1.115ドル~1.145ドル程度で大きな動きにはならないとみている。
 
 ――その他、注目している通貨ペアは?
 
 年末の主役は英ポンドになると思う。12月11日に予定されている英政府とEUとの合意内容についての議会採決に向けて、ポンドは上にも下にも大きく動く可能性があるだろう。英国のメイ首相がEUと合意した内容について、英国内では弱腰との批判が強く評価が低い。このため、英国議会は、この合意案を承認しないのではないかという見方が強くなっている。メイ首相は、これから投票日まで全国行脚をして、合意案について説明をするとともに支持を取り付けるとしているが、果たして過半数の支持を得られるかどうか難しいところだろう。
 
 もし、議会で承認を得られない事態になれば、「合意なきブレクジット」が現実のものとなり、英国からEUへの輸出はストップし、飛行機の乗り入れさえ困難になる可能性もある。英国内の反対派は「悪い合意ならないほうがマシ」と主張する一方、メイ首相は「合意を拒否しても、より良い結果が得られる事はない」と警告。いまのところ、どちらも一歩も譲らない構えだ。
 
 11日の採決で、合意案を承認しないという結果が出た場合、1ポンド=140円割れの事態もあるだろう。反対に、議会が合意案を承認するという結果がでたら、BOE(英中銀)の利上げ観測もあいまって1ポンド=150円を超える場面も想定される。ポンド/円を3円~5円動かすだけにインパクトがあると考えられ、その結果には大いに注目されるところだ。