米中貿易摩擦という火種を抱えて株安に歯止めがかからない中国で、10月18日には中国政府の複数の経済閣僚が一斉に株価下落を回避させるための口先介入を行うという異例の対応を行った。大和総研経済調査部主席研究員の齋藤尚登氏は10月31日、「習近平国家主席の経済ブレーン・劉鶴副首相は何を語ったのか」と題したレポート(全1ページ)を発表し、閣僚の一斉発言の中で劉鶴副首相が語った内容から、中国で問題視されている「国進民退」の問題は、より複雑化して依然として進行しているとの見方を示した。レポートの要旨は以下の通り。
 
 10月18日の上海総合株価指数は昨年末比24.8%安の2,486ポイントで引け、翌19日には複数の閣僚と経済金融担当の副首相が一斉に口先介入を行うという異例の措置が行われた。具体的には、郭樹清・中国銀行保険監督管理委員会主席が中国証券報の、易綱・人民銀行総裁が金融時報の、劉士余・中国証券監督管理委員会主席が新華社の、さらに劉鶴・副首相は人民日報、新華社、中央テレビ局のインタビューに一斉に応じる形で、株価下落は行きすぎである旨をコメントした。
 
 例えば、易綱氏は「株価下落は心理的な要因が大きい。現在の株価は歴史的に見て比較的低い水準にあり、中国の安定の中で上向くという良好な経済のファンダメンタルズとは相反している」などとした。株価の下落幅が拡大するにつれて、マクロ面ではマイナスの資産効果による消費への悪影響が、個別企業では株式担保融資に関連した追加担保の提供、それができない場合の融資減額による資金繰りの悪化などが懸念されており、中国政府として、これ以上の株価下落を回避するとの強い意志を表明したものとみられている。
 
 筆者は、習近平国家主席の経済ブレーンである劉鶴・副首相がインタビューで何を語ったのかに注目したが、結論を先に言えば、肩透かしの感があった。
 
 劉鶴氏への質問は5つあり、2つが株式市場、2つが民間企業、最後が経済・金融情勢と産業構造の変化についてであった。民間企業に関する質問が2つ用意されたのは、それだけ大きな問題を抱えていることの裏返しである。劉鶴氏は「いくつかの機関の職員は国有企業への融資は安全だが、民間企業への融資には政治的リスクがあると考えている」といった問題を指摘した。国有銀行と国有企業は歴史的に密接な関係があり、仮に貸出が不良債権化しても大きな責任は問われないため、銀行は融資に積極的になる一方で、こうした安全弁のない民間企業への融資には二の足を踏むということである。
 
 「国進民退」の問題について、筆者は上記のように政策の恩恵が国有企業に集中し、民間企業は蚊帳の外に置かれるという状態を指すと理解していたが、最近はそれだけにとどまらないとの指摘がある。党中央・政府が社会主義化政策を推進するために、国有企業に民間企業を吸収合併させているとの懸念である。劉鶴氏は、「国有企業による民間企業の救済・支援である」として、社会主義化政策としての「国進民退」を否定したが、今年に入って国有企業に吸収合併された民間企業は優良企業とされるところが少なくなく、疑念は残されたままである。
 
 劉鶴氏は最後の質問である、経済・金融情勢と産業構造の変化について答える中で、今後の重点として、(1)民間企業の発展を支援し、金融へのアクセスを高め、各種負担を軽減する、(2)国有企業改革を深化させ、より完全なコーポレートガバナンスを確立し、内部のインセンティブ・メカニズムの構築を強化し、核心となる競争力を高める、(3)金融システムは適応力を高め、実体経済に寄与する能力を増強する、の3点を掲げた。ここでも民間企業と国有企業がキーワードとなったが、一般論を繰り返した印象に終わっている。残念ながら「国進民退」は現在進行形であろうし、より複雑化しているとみておくべきなのであろう。(情報提供:大和総研)(イメージ写真提供:123RF)