米国の金利上昇を手掛かりとしたドル買いと、世界的な株安を背景としたリスクオフの円買いが交錯し、ドル/円が狭いレンジでもみ合う展開になっている。外為どっとコム総合研究所の取締役調査部長兼上席研究員の神田卓也氏(写真)は、「米国の経済指標に大型ハリケーンによるイレギュラーな影響が入り込みファンダメンタル分析が難しくなっているところへ、米国の中間選挙が重なっているため、当面は経済指標の強弱よりもニュースのヘッドラインに敏感に反応するようなドル/円相場になりそうだ。ただし、10月同様に11月も値幅は大きく出ないだろう」と見通している。神田氏の見解は以下の通り。

 ――米国の中間選挙が近づいてきたが、ドル/円相場への影響は?

 足元の動きは、世界的に株価の先行きが不透明となり、リスク回避の手段として円が買われているが、一方で、日本円以外の通貨に対しては、高金利通貨としてドルを買う流れが続いていて、対円ではドルが下げ渋るという展開になっている。

 リスクオフの局面で手持ちのドルを手放すという動きは出ても、高金利通貨であるドルを新たに売り持ちにするような動きにはなりにくいのだろう。これに加えて、ドルの下値には日本の機関投資家からのドル買いの需要が強いとみられ、ドルが大崩れする可能性は低いといえる。米中間選挙の不透明感が払しょくされれば、ドル高に動く可能性が高いと見ている。

 その中間選挙についても、結果は投票を待たないと何とも言えないが、直接的な影響は限定的だと考えている。

 まずは、上院で共和党が過半数を維持する一方、下院は民主党が奪回するというのが、市場のメインシナリオと言えるだろう。議会にねじれが生じるため、トランプ政権の政策遂行力が低下すると見ればドル安要因にもなり得るが、世論調査の結果などから、ねじれは概ね織り込み済みであろう。また、ねじれがトランプ大統領の暴走に対する抑止力にもなり得るとの評価も可能だ。瞬間的にドルが弱くなることはあるかもしれないが、ネガティブな反応は一時的なものになるだろう。

 可能性は大きく低下するが、次にあり得るのが上院も下院も共和党が制するというシナリオだ。この場合は、減税などによる景気重視のトランポノミクスが追認され、より力強く推し進められることになるので、ポジティブサプライズとなり、ドルが一段と買われることになるだろう。

 そして、最も可能性が低いのは、両院を民主党が取るというシナリオで、この場合は、今回の改選35議席のうち28議席の獲得が必要になるため、実現はかなり厳しい。もし、両院を民主党が取った場合には、トランプ大統領の弾劾リスクが意識される可能性もある。いずれにしても、ドルにとってはネガティブサプライズになるだろう。

 したがって、中間選挙については、ドル/円相場への影響は限定的で、もし、サプライズがあるとすれば、ドルを小幅に押し上げるポジティブな反応になると考えている。

 ――その他、ドル/円で注目されるポイントは?

 8日のFOMCの声明が注目される。今回は、12月の利上げを示唆する声明が出てくると見るが、それを受けて米国株価が再び動揺しないか心配な面がある。現在、12月利上げの市場織り込み度は60%~70%程度であり、裏を返せば利上げ見送り期待が30%~40%程度あるという事になる。FOMCで、12月利上げが確実視されるようになると、それを嫌って株価が崩れる可能性があり、そうなるとドル以上に円が買われる事も考えられる。

 2009年に始まった米景気の拡大期は10年目に入り、過去最長記録の更新が視野に入ってきた。それだけに、いつ景気がピークアウトしてもおかしくないとの見方も出始めている。雇用統計や小売売上高などの米景気指標に改めて注目したい局面ではあるが、10月はじめにかけて立て続けに米東部などを襲った大型ハリケーンの影響で統計にはノイズが混じる公算が大きい。したがって、市場の反応は、経済指標には鈍感となりがちで、中間選挙の見通しなどのニュースのヘッドラインに神経質になる傾向が強まるだろう。

 10月のドル/円は111.30円台~114.50円台と、3円程度の比較的小幅な値動きだったが、11月もどっちかに大きく動くことが難しい展開が続くと考えている。当面は1ドル=110.50円~113.50円程度のレンジを予想する。

 ――豪ドル/円が年初からずっと弱い理由と今後の見通しは?

 米国の政策金利が豪州を逆転した事などから、対米ドルで豪ドルが売られやすい上に、米中貿易戦争のエスカレートなどによって中国景気の先行きに不透明感が広がっており、豪ドルの頭を押さえ付けている。

 中国については、人民元が対ドルで10年ぶりの安値水準にあり、節目として意識される1ドル=7元を超えて一段と元安が進むと、中国からの資金流出が本格化する可能性が指摘されている。中国の中央銀行は、先日、「人民元は合理的な均衡水準で安定させたい」という声明を出しており、1ドル=7元を守りたいという意思を示しているため、当面は、この水準をキープできるかどうかを確認したい。

 世界の株式市場の行方や中国の人民元安の下げ止りなど、外部環境次第なのだが、外部環境が落ち着くことを前提にすれば、10月末に発表される7月-9月のCPI(消費者物価指数)の水準によっては、豪中銀が次の一手として予定している利上げに対する期待感が高まる可能性がある。11月6日には豪中銀の理事会があり、豪ドル安が進んだことで、インフレを押し上げることを懸念するような発言が出てくるかもしれない。中銀のタカ派的な発言は、豪ドルの下落に歯止めとなる。

 当面は、1豪ドル=78円~82.50円程度と考えている。

 ――その他、注目の通貨ペアは?

 ユーロ/円が大きく動く可能性があると見ている。欧州委員会はイタリア政府が提出した予算案を財政規律に違反するとして却下したが、これはユーロ誕生以来初めての事らしい。欧州委員会は3週間をめどに予算案の再提出を求めているが、イタリア政府はこれを修正するつもりはない模様。再提出期限と考えられる11月13日が近付くにつれて対立が鮮明化する可能性があり、ユーロは波乱含みの展開となりそうだ。

 イタリア政府としては、ユーロの規律を乱してでも財政バラマキ的な支出を行うのは選挙公約を履行しようとするものなので、簡単には引けないところだ。EUとしては、GDP比130%に達しているイタリアの債務残高をさらに悪化させるような予算案を認めることで、悪しき前例を作りたくないだろうから、落としどころが見当たらない状況になっている。

 仮にイタリアの債務不安に火が点けば、ギリシャ危機の比ではない大きなショックにつながりかねない。現状ではイタリアのユーロ離脱までは想定されないが、今後の交渉の行方には注意を払いたい。

 ユーロ/円は、1ユーロ=126円台にまで売られて相当弱くなっているが、イタリア問題がこじれれば124円台への続落もあり得る。反対にイタリア問題が解決する見通しが立てば、130円程度への戻りもあるだろう。当面は、クロス円の動きが大きくなりやすいとみている。