「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」という言葉がある。投資で必ず成功する秘訣を探っても、局面によって異なり、結局は「柔軟に対応する」以外に不変的な法則を見出すことは難しい。ただ、失敗には必ず理由があり、こうすれば必ず失敗するという秘訣は何となく示せるような気がする。この「失敗の法則」を反面教師とし、運用に活かせるのでは――ブラックロック・ジャパンの取締役リテール営業部門長の浜田直之氏(写真)は、人生100年時代といわれるこれからの資産運用を考えるポイントを語る。

<「利食いは早く、損切りは遅く」―陥りやすい、典型的な失敗パターン>

 私は山一證券広島支店の営業員として社会人のスタートを切った。証券セールスは手数料を稼ぐことを第一に考えているとの意見を聞くこともあるが、私は、「どうすればお客様に喜んでいただけるか」を懸命に考え続けたと自負している。多くのセールスの方もきっと、お客様の利益を第一に考えてアドバイスをしていると思う。

 ただ、お客様のことを真剣に考えるうちに、お客様と同じ気持ちになり、陥ってしまうことがある。それは「利食いは早く、損切りは遅く」だ。利益が出ている局面では、利益の確定を急ぎたくなる。反対に、損失が出ていると、少しでも損失を小さくしたいと考え、価格が戻るのを待ち、かえって損失が大きくなってしまう。本来であれば、「含み益を積み上げ、ロスカットは早めに」できればいいのだろうが、「人間の心理」に従うと相場動向が気になり、当初の考え通りにアドバイスができなくなってしまう。

<短期の動きに一喜一憂する>

 短期の動きに一喜一憂して行動し、長期投資が根付かない背景には「投資環境」があると思う。例えば、日本の株価は、パブルのピークであった1989年のTOPIX(東証株価指数)を100とすると、現在は60%の水準だ。国内債券も長期にわたって利回りの魅力が低い。したがって投資家は海外の株式(米国株式は同期間に約9倍)や利回りの高い債券に目を向けるのだが、時々襲う大きな為替変動で資産が減少し、自信を失う。このような投資環境が長期投資を邪魔してきたといえるだろう。

 だが、同じ環境でも、長期分散、長期積み立てをしていたらどうだったか。TOPIXは60%の水準だが、ピークから毎月同額を投資していたら、利益は積み上がっていたと試算される。では、なぜ、この「長期」「分散」「積み立て」ができないのか。そこには「何のために投資をするのか」という目的(ゴール)を持たないで運用している、という現実があるのではないか。明日は今日より良くならない「日本経済の失われた20年」を経験したり、為替変動に何度も遭遇したりすると、長期投資に自信が持てないことは理解できる。ただ、このような環境でも、「明確な投資目的」を持っていたなら、短期の動きに動揺せず、長期投資で分散や積み立てができたのではないだろうか。

<「目的を持たないで運用する」―トラックレースなのかマラソンなのか>

 車の運転では、目的地と到達する時間を決めてからハンドルを握る。運用も同じで、「何のために運用するのか」という目的が第一で、それを決めると、どんな運用をすべきなのかが見えてくる。自分はいくら資産を持っているのかという現在地を確認し、将来どのような生活をしたいのか、そのために何年後にいくらまで資産を増やしたいのか、目的地(ゴール)をイメージする。そうすると、投資期間やリスクのとり方など、運用の方法(ドライブの仕方)が決まる。

 近年、「ゴールベース営業」がいわれている。マイホームは購入するのか? 何歳でリタイヤするのか? リタイヤ後の生活の水準は? このような事柄に対する考え方は、人それぞれだ。だから、個々人のライフプランに沿った運用を提案しようということで、良い方針だと思う。将来のインフレを考えて資産の目減りを避ける運用が必要だと感じる人もいる。自身の将来の理想を展望し、積極的に運用したいと思う人も出てくるだろう。大事なことは、自身の現在の状況を理解し、将来のゴールをイメージし、実態に即した資金需要を見通して、自分事として備えることだ。

 運用をしていると、大きな変動に遭遇することも当然あるだろう。目的と時間軸を持たないと、短距離のトラックレースを競うように、相場動向に一喜一憂し失敗パターンに陥りやすい。運用は、自分の目標タイムでゴールを目指すマラソンのようなものだ。途中の相場の上げ下げは最初から覚悟した上で、自信を持って諦めずに運用することが、これからの時代に必要なことだと確信している。(情報提供:モーニングスター社)