林鄭月娥・行政長官は9月9日、香港電台(RTHK)の公開番組「衆言堂」に出演し、会場に集まった100人余りの市民から10月に発表する施政報告(施政方針演説)に対する意見を聴取した。今年の施政報告では住宅・土地問題で多くの措置が打ち出されるとみられる。(編集部・江藤和輝)
 
 林鄭長官は住宅・土地問題が施政報告の重点中の重点として「政府はより多くの市民の手の届く住宅の建設を望んでいる」と強調。最も差し迫った問題は依然として土地供給であり、数カ月にわたって行っている土地供給に関する公開諮問でも大多数の市民が埋め立てによる土地創出とグレーゾーン用地の開発に傾いていると指摘した。先に新民党が提案した香港近隣の中国本土海域の埋め立てについて林鄭長官は「香港の問題はできるだけ香港自身で解決する」として反対を表明。軍用地を回収する提案についても「香港で空いている軍用地は1つもない」と否定した。このほか単程証(移住ビザ)による本土からの移住枠削減、中古住宅物件の空室税、外資による物件購入の制限も実施しない姿勢を示した。
 
 会場ではある市民が基本法23条に基づく立法と政治体制改革のやり直しを要求したが、林鄭長官は「過去、何期かの政府がこれら議題を処理したが、いずれも成功しなかった。このため行政長官としては成功の可能性がある場合に着手する。さもなくば精力を消耗するだけなので、容易に着手できない」と説明した。またある市民は銅鑼湾書店事件と香港衆志のメンバーが本土で拘束されたという件をめぐり林鄭長官を批判したが、林鄭長官は「もし市民が法に基づいて行われていないと思う件があれば疑問を呈すればいい。執法機関が徹底的に調査する。人から聞いたことだけ信じて証拠や事実を見ないならば香港の法治社会の精神に適したやり方ではない」と述べた。
 
 これより先の8月17日夜、林鄭長官はフェースブックで生中継による施政報告の公開諮問を行った。放送は午後8時から約50分で、午後11時までに7万人余りが視聴した。市民から施政報告に対する意見を聞き、その場で30項目の質問に答えた。質問の大部分は住宅・土地、労働、医療などの民生問題。土地不足の解消について林鄭長官はあらためてビクトリア湾以外の埋め立てを表明し「土地開拓に多くの方法はなく、埋め立てが必要であることは歴史が教えている」と述べた。「1日150人の単程証の発給を停止できないか」との問いに対しては「市民は住宅難が単程証と関係あると思わされているが、事実とは異なる。これは家族団らんの政策であり、出生率の低い香港では単程証を持つ者が新鋭戦力となる。一部の過激な若者も単程証で来港しており、セントラル占拠行動で私が知り合った何人かも新移民だった」と述べた。
 
 土地供給について検討する政府の専従チーム「土地供応専責小組」は4月26日から5カ月の公開諮問を行っている。諮問文書は76ページに及び、土地供給の選択肢として18項目を挙げている。短中期(今後約10年)として、新界のグレーゾーン用地約1300ヘクタールやプライベート娯楽施設用地の転用など4項目。中長期(約10~30年)として、ビクトリア湾以外の埋め立て、香港島とランタオ島の間に1000ヘクタール余りの人工島を建設するなど6項目。概念的提案として、内航ふ頭用地の開発、葵涌コンテナターミナルの移転・再開発やコンテナターミナル上部の開発など8項目。土地供応専責小組の黄遠輝・主席は「香港の土地不足問題は焦眉の急」と形容。特区政府規画署の資料では2026年までに815ヘクタールの土地が不足しており、うち住宅用地は108ヘクタール、インフラ施設用地は572ヘクタールとなっているほか、2046年までに不足している土地は少なくとも1200ヘクタールに上ると指摘した。
 
◆基本法23条問題は棚上げ
 
 土地開拓については斬新な提案も多数挙がっている。新民党は8月1日、林鄭長官と会談し、施政報告の策定に向けて43項目の提案を行った。現在の深刻な土地不足と住宅価格の高騰に対処するため、将軍澳と仏堂洲の一帯を埋め立てるほか、マカオにならって中国本土海域の埋め立てを中央政府に要請することや、永住者以外の住宅購入を制限、香港ディズニーランド第2期の用地回収などを提唱した。本土海域の埋め立てはランタオ島以西の一帯を提案し、700~1000ヘクタールの土地創出を見込む。葵涌コンテナターミナルをそこに移転させて粤港澳大湾区と港珠澳大橋による発展に呼応すると同時に、葵涌の跡地300ヘクタールは住宅開発に回す。また、ディズニーランドの入園者数が減少していることを指摘し、政府はディズニー側と第2期拡張計画の条件を速やかに協議し、開発条件が厳しいものなら用地回収を検討すべきと指摘した。さらに運輸及房屋局の分離も提案に盛り込んでいる。
 
 香港団結基金は8月7日、「強化東大嶼都会」と題する土地開発の研究リポートを発表した。これは特区政府の発表した「香港2030+」に盛り込まれていたランタオ島東側を埋め立てる「東大嶼都会」計画の強化版。香港島とランタオ島の間の海域で大規模な埋め立てを行い2200ヘクタールの土地を創出するもので、政府の提案する1000ヘクタールの2・2倍、その面積は九龍半島(4700ヘクタール)の約半分に相当する。埋め立て地の28~32%に当たる620~700ヘクタールを住宅開発に充て、25万~40万戸の住宅を供給。70万~110万人が居住できることとなる。公共住宅と民間開発の割合は7対3とする。そのほか12~21%の460ヘクタールは経済用地で、教育、クリーエティブ、会議・展示会、医療、科学技術の5大産業を振興する。3本の鉄道でケネディータウン、美浮、屯門南とを結び、セントラルまでの所要時間は15分となる見込みだ。第1段階は2029年、第2段階は32年の完成を目指す。
 
 林鄭政権の閣僚に相当する行政会議メンバーを務める香港金融管理局(HKMA)前総裁の任志剛氏は8月28日、公式ブログで土地政策について意見を述べた。任氏は土地開発・供給を行う「特殊目的会社」を設立し、外為基金に投じている財政黒字の一部を注入して土地供給政策の目標を達成させることを提案したほか「住宅価格を香港市民が負担できる水準に戻すのは重要な公衆の利益。政府は大ナタを振るう形で住宅用地を大幅に拡大する必要がある」として政府の役割を強調した。香港の根本的難題である住宅問題への取り組みは容易ではない。これに注力するためにも林鄭長官は政治問題を当面棚上げする姿勢を示している。(情報提供:香港ポスト)(イメージ写真提供:123RF)