りそなグループは、中小事業主掛金納付制度(iDeCo+:イデコプラス)について、全国の拠点を通じて積極的な情報発信を進めている。iDeCo+は、個人型確定拠出年金(iDeCo:イデコ)に加入している従業員の掛金に企業が上乗せして拠出する仕組み。企業を主体にiDeCoの普及を促す有力な手段になり得ると注目されている。iDeCo+の推進について、りそな銀行 りそな年金研究所 統括主席研究員の谷内陽一氏(写真)に聞いた。
 
 ――iDeCo+への反応は?
 
 試験的にりそな銀行の担当部署から「iDeCo+」の案内をしてみたところ、非常に強いニーズが企業側にあることが分かった。
 
 現在、かつてない人手不足の中で、企業は人材の採用・定着に苦労している。企業を選ぶ際に重視するポイントに「福利厚生制度」を挙げる若者が増えていることもあって、簡単な手続きで企業年金があることを謳える「iDeCo+」は、企業イメージの向上にもつながるようだ。最近は求人広告に「個人型確定拠出年金制度あり」と記載する企業も出始めており、新たな福利厚生制度としてのニーズは高まりつつあると感じている。
 
 ただ、依然としてiDeCoの認知度は低い。「iDeCo+」に至っては、ほとんどの企業が知らない状況といえる。機会があるごとに、iDeCoと「iDeCo+」について紹介するようにしていきたいと考えている。
 
 ――普及のための取り組みは?
 
 まず、制度のポイントをまとめた「eBook」を刊行し、当社公式ホームページからいつでもダウンロードいただけるようにした。これまでに2巻を刊行し、3巻目を準備しているところだが、今後も必要に応じてeBookを出していく予定だ。
 
 eBook第1巻は、「優秀な人材確保のために」と題し、中小企業を取り巻く環境変化、特に、優秀な人材の確保・定着のための施策として、退職金・企業年金制度がクローズアップされている現状を客観的に紹介する内容になっている。現在の完全失業率は2.2%とバブル期よりも低く、有効求人倍率は1.6倍と約45年ぶりの水準となるなど、かつてない売り手市場になっている。人手不足対策は、企業の規模を問わず大きな経営課題になっている。
 
 企業は求職者に自社をアピールするため、従業員の処遇(給与、福利厚生制度など)を充実させているが、一般的に、福利厚生制度は企業規模の大きなところほど充実しているのが現実だ。厚生労働省の就労条件総合調査によると、従業員数1,000人以上の企業では、約94%の企業に退職給付制度があり、企業年金の導入比率も高い。ところが、従業員数100人未満の中小企業の場合、退職給付制度がある企業は72%に過ぎず、しかも、退職給付制度がある企業のうち企業年金があるのはそのうち26%で、それ以外は退職一時金のみになっている。
 
 今年5月から導入可能になった中小事業主掛金納付制度「iDeCo+」は、中小企業が簡便に導入できる「お手軽かんたん企業年金制度」といえる。iDeCoをベースにした制度なので、制度の主体は個人であり、運営管理機関手数料や個々の運用商品にかかる手数料(信託報酬等)は従業員が個々に支払う。企業はiDeCoの掛金を上乗せして支払うだけで、企業年金のようにアピールすることができる。しかも、企業が拠出する上乗せ掛金は、全額損金として処理できる。
 
 制度を導入すると、従業員のiDeCoの掛金は事業主払込(給与天引き)に一本化し、従業員の異動届などを企業が処理するなどの事務手続きは必要になるが、既存の企業年金制度と比較すると、はるかに事務負担等のコストは低い。
 
 そして、eBook第2巻は、「iDeCo+」の制度の概要と活用方法について、より詳しく解説する冊子にした。現在、準備を進めている第3巻では、制度導入のための具体的な手続きの仕方について詳しく説明する内容になる。この全3巻のeBookを読んでいただくだけで、一通りの情報を知っていただくことができる。
 
 一方、「iDeCo+」に特化した、企業の総務・人事担当者向けのミニセミナーを、今年8月から実施している。1回あたり1時間程度で、eBookの第1巻から第2巻に相当する内容を説明している。8月に20回以上開催し、現在も継続実施しているが、定員10名の会場がほぼ満員になることもある。
 
 このようなeBookやセミナーを通じて「iDeCo+」に関心を持っていただいた企業には、各企業における社内説明会の開催などの形でもサポートをしている。
 
 ――「iDeCo+」をりそな銀行で申し込むメリットは?
 
 「iDeCo+」は、導入企業から当社が何らかの手数料を得るような仕組みはない。従業員が加入するiDeCoについても、どの運営管理機関を利用するかは従業員が選択するため、当社のiDeCoへの加入を強制することはできない。
 
 ただ、「iDeCo+」の導入に係る説明会や、従業員に対するiDeCoセミナーの開催など、従業員向けの説明の実施の際は、しっかりサポートさせていただく。企業にとっては、従業員向けの福利厚生の一環として、iDeCoを含めた資産形成・資産運用についてアドバイスの機会を提供できることは、従業員の定着に一定の効果があると考えられる。
 
 ――今後の展望は?
 
 iDeCoの加入者は100万人を突破したとはいえ、公的年金の被保険者(=加入可能な対象者)全体約6,700万人のうち、まだ1.5%程度が加入した段階に過ぎない。「iDeCo+」については、まだ制度が始まったばかりでほとんど実績がないが、勤め先の企業から「iDeCoに加入している人に、会社側が掛金を上乗せする」というアナウンスがあれば、iDeCoに加入していない人にiDeCoへの加入を促す大きな効果があると思う。
 
 企業の上乗せ掛金は、従業員の掛金との合計で23,000円まで、1,000円以上1,000円単位で設定できる。たとえば、5,000円の上乗せだと1年間に企業が拠出する金額は、1人の従業員あたり6万円になる。6万円が受け取れるチャンスを黙って見過ごしにしてしまう人は少ないだろう。「iDeCo+」の説明会を開催することによって、まとめて多くの従業員の方に当社のiDeCoに加入していただける可能性もひらける。
 
 8月までは「iDeCo+」のセミナーや個別企業への案内等を試験的に実施したが、各営業店では「iDeCo+」のパンフレット等を通じて、制度の内容について学ぶ機会にもなっていた。9月からは、りそなグループ(りそな銀行・埼玉りそな銀行・近畿大阪銀行・関西アーバン銀行・みなと銀行)の840拠点がiDeCo+の情報発信拠点になる。いま現在、全国のネットワークで組織的に「iDeCo+」について説明できる金融機関は、他にないと思っている。
 
 さらに、「りそなのiDeCo」の受付金融機関になっていただいている地方銀行、信用金庫、信用組合、生命保険会社をも通じて、「iDeCo+」の情報発信を強めていきたい。地域の金融機関にとって、取引先である中堅・中小企業の競争力を強化する施策を提供することは、前向きに取り組んでいただける。受付金融機関とも連携して、全国規模での運動にしていきたい。
 
 りそなグループのお取引いただいている1,600万人の個人のお客さま、そして、50万社の中小企業のお取引先にとって、個人でのiDeCoへの加入、および、勤務先での「iDeCo+」の導入は、老後の安心を得るという意味では、非常に価値のあることだと考えている。iDeCoの普及は、りそなグループが中堅・中小企業を主要な顧客基盤としている銀行であるからこそ、率先して取り組むべき仕事だと思っている。(情報提供:モーニングスター社)