iDeCo(イデコ、個人型確定拠出年金)は加入者100万人時代を迎えた。法改正によって、公務員や専業主婦(夫)を含む全ての国民が加入可能になった2017年1月までの加入者は約31万人。1年8カ月で3倍以上に拡大したが、加入対象者全体(約6700万人)の1.5%に過ぎない。りそな銀行の信託ビジネス部担当執行役員の枡田至弘氏(写真)は、「公的年金は徐々に水準が低下し、老後の収支ギャップは一段と拡大する。人生100年時代に老後資産の準備は誰もが自分事として考える必要がある。そして、単に準備するだけではなく、いかに財産を殖やすかも大事だ」と、iDeCoを活用した資産運用の重要性を訴えた。

◆夫婦2人の老後生活で不足する4.6万円、将来は8.6万円に拡大?

 少子化によって、65歳以上の年金受給世代1人を支える現役世代の人数が、1970年の8.5人から、2010年には2.6人に減少し、さらに、2050年には1.2人になると予測される。年金保険料の範囲で給付を賄うための仕組みとして導入されたのが「マクロ経済スライド」。これによって現在62%台にある所得代替率(現役時代の手取り収入額に対する年金額の割合)は、2040年代には50%程度に低下する見通しになっている。政府は、50%以下にはならないような仕組みにするとしている。

 現在の家計調査によると、公的年金の収入(モデル世帯=夫と専業主婦の妻の2人世帯で月額21.8万円)に対し、実際の支出(26.4万円)の差は4.6万円になっている。このギャップを埋めているのが、貯えの取り崩しだ。ところが、今後、年金の給付額が減額されていくと、この収支ギャップは自然と拡大していく。たとえば、所得代替率が現在の62.7%から51%に低下すると考えると、収支ギャップは月間8.6万円に広がることになる。

 65歳時点で月に8.6万円の収支ギャップがあると、95歳までの30年間で3096万円(8.6×12×30)の不足が生じる計算だ。枡田氏は、「男性の平均寿命が81.09歳、女性が87.26歳という現在、95歳まで生きることは非現実的に感じられるかもしれないが、厚生労働省の簡易生命表などで平均余命を調べると、男性の9.1%、女性の25.5%が95歳まで生存する。現在でも男性は10人に1人、女性は4人に1人が95歳になり、これがさらに増えていくのであれば、もはや人生100年を誰も他人ごとで済ませるわけにはいかない」という。

◆日米の家計資産に格差をもたらした「株式・投信」の保有比率

 そこで、米国の家計金融資産が過去20年間で運用リターンによって2.32倍になった事実に基づいて、米国の家計の年平均運用利回りを求めると年4.29%が計算できる。23歳から65歳までの43年間に毎月2万3000円を拠出して年4.29%で運用できたら、65歳時の資産残高は約3280万円になる。これで95歳までに必要な資金(3096万円)を埋め合わせることができる。さらに、この3280万円を年平均4.29%で運用しながら毎月8.6万円を取り崩しても、取り崩し額が運用益の範囲に収まり、元本が減らず、無限に取り崩しが可能になる。

 ところが、日本の家計金融資産は過去20年間で1.15倍にしかなっていないので、年平均利回りは0.70%だ。毎月2万3000円を43年間、年0.70%で運用すると、残高は約1380万円にしかならない。1,380万円を年0.70%で運用しながら、毎月8.6万円を取り崩すと、14年後の78歳の時に資金が枯渇してしまうことになる。日本の過去20年間の金融資産運用の考え方では、人生100年時代を乗り切ることは厳しいことがわかる。

 このような日米の運用利回りの差は、金融資産の構成割合によって説明される。米国では間接保有を含むと資産の45.4%を株式や投信といった有価証券が占め、日本は、その比率が18.8%に過ぎない。日本では家計金融資産の51.9%は収益をほとんど生まない現金・預金が占めている。このため、運用リターンが低く抑えられている。

 枡田氏は、「米国の家計も最初から株式・投信の比率が高いわけではなかった。2006年の年金保護法制定によって、確定拠出年金制度(401k)の適格投資商品(デフォルト商品)に元本維持商品は相応しくない(想定リターンが低く長期投資の趣旨にそぐわないなど)とされ、401kを通じて家計の投信保有が当たり前になった。ところが、日本では改正確定拠出年金法によって指定運用方法(デフォルト商品)の法制化が実現したものの、指定運用方法の基準は『元本確保型商品に加えてターゲット・イヤー・ファンドなども選定可能』とするものだった」と日米の違いを解説した。

 りそな銀行では、iDeCoの指定運用方法にターゲット・イヤー・ファンドを採用するなど、長期の資産形成を意図した商品性にしている。「日米の1人あたり家計金融資産について20年前と現在を考えると、人口の変化や為替の影響を考えないで単純計算では、1995年当時は日本の方がむしろ豊かだったが、現在では米国が約2600万円で日本は約1400万円と大きく差が開いた。ここに運用の差があるのであれば、日本でも株式・投信の比率を意図的に高めた運用を進めるべきではないか」と枡田氏は訴えている。

◆従業員の掛金に企業が上乗せする「iDeCo+」は、りそなグループが率先

 そして、iDeCo普及に重要な役割を果たす制度に、今年5月に解禁された「中小企業主掛金納付制度(iDeCo+:イデコプラス)」があるという。従業員数100人以下の企業で、企業年金を実施していない場合、労使合意によって、従業員が加入しているiDeCoに事業主が追加で掛金を拠出する仕組みだ。iDeCo+の導入によって、従業員のiDeCoは給与天引きによる納付に切り替わり、会社からの拠出金を加えて、より大きな掛金の積み立てができるようになる。企業にとっては、企業負担掛金は全額損金(または、必要経費)に算入可能。

 枡田氏は、「日本の事業所数約554万社のうち、100人未満の事業所は約548万社で98.9%を占める。そこに務める従業員数は約4124万人だ。100人未満の企業では81.4%で企業年金がないので、3300万人以上がiDeCo+の加入対象者になる。iDeCo+を案内したところ、従業員の福利厚生を充実する手段として、ほとんどの企業で前向きに検討してもらえる。人材の採用難は多くの中小企業が抱える課題。iDeCo+は企業に大きな負担なく、福利厚生を拡充する制度として歓迎されている。iDeCo+は、中小企業向け金融に特化したりそなグループが率先して提案する制度であるとの思いを強くしている」と、りそな銀行のみならず、りそなグループ全体でもiDeCo+の提案を積極化していくとした。