米国の貿易に対する多方面への「攻撃」が、一向に収束する気配がない。対中貿易の関税引き上げから始まって、メキシコやカナダ、EU、日本との貿易交渉などなど、今後の動きはまさに不透明極まりない。そんな状況の中で、8月は「トルコリラ暴落=トルコショック」が起きた。その影響は欧州の銀行やトルコ以外の新興国通貨にも及ぼうとしている。9月は、米中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)によって、今年3度目の政策金利引き上げが予想されている。そんな中でトルコリラ暴落、米国による貿易戦争が世界全体にどんな影響をもたらすのか・・・。外為オンラインの佐藤正和シニアアナリスト(写真)に9月の為替市場の動向を伺った。

 ――トルコリラ暴落で為替市場は大揺れですが・・・。今後の展開は?

 8月相場は荒れることが多い月というのが定説ですが、今年もトルコリラの暴落という形で市場は大混乱に陥りました。もともとトルコは、慢性的な高インフレが続き、財政の悪化や外貨準備高の減少によって、年初来ずっと対ドル相場で下落が続いて来ました。

 そんな状況の中で、米国はトルコからの鉄鋼とアルミニウムに対して輸入関税を2倍に引き上げると発表。それがきっかけでトルコリラは米ドルに対して、8月中に最大23%、年初来で4割を超す下落を記録してしまいました。

 トルコリラは対円でも大きく下げ、日本の投資家の象徴的なシンボルとされる「ミセスワタナベ」も、高いスワップポイント狙いが裏目に出て、莫大な資金がロスカットされたのではないかと懸念されています。

 いずれにしても、トルコリラは今後も油断できない状況で、トルコに多額の投資をしているスペインやイタリア、フランスの銀行、あるいは、トルコに似た境遇にある新興国通貨が不安定になっており、きちんと監視していく必要があると思います。 
 
 ――トルコリラ暴落の原因ともなった米国の貿易政策ですが、その影響は?
 
 トルコリラ暴落の直接の原因も、トランプ政権が強引に推進する「米国第一主義」の延長線上にある輸入関税引き上げでしたが、いまやその動きはますますヒートアップしています。

 とりわけ、対中国ではすでに500億ドル分の輸入品に対して25%の関税が引き上げられていますが、早ければ9月にも2000億ドル相当分の輸入品に対する追加関税が実施されるかもしれません。

 中国は、米国に対して年間約5000億ドル以上の輸出をしていますが、逆に中国が米国から輸入している輸入額は年1300億程度。米国が2000億ドルの輸入品に追加関税をかけるとなれば、中国からの輸入品の約半分に対して高い税率が課税されることになります。これまで中国は、米国への報復関税として同額の輸入品に対して関税を引き上げてきましたが、今後は異なる方法で米国の貿易戦争に対応して行くことになります。

 さらに、トランプ大統領はメキシコとの自由貿易交渉に合意し、カナダも含めた「NAFTA」に代わる新しい貿易条約を結ぼうとしています。EU(欧州連合)との交渉でも、EU側が「自動車関税撤廃」を提案していますが、貿易戦争は自国だけが無傷で済むものではなく、どちらも共に犠牲を強いられることになります。中間選挙さえ乗り切れば後はどうでもいい、といった捨て身の貿易交渉が少なくとも11月まで続く可能性があります。

 ――9月の米国の利上げは、どんな影響をもたらすのでしょうか?
 
 9月25日-26日にかけて行われるFOMC(米連邦公開市場委員会)では、米国の政策金利引上げが予想されていますが、すでに市場も織り込み済みであるように、ほぼ確実に利上げは行われると思います。

 問題は、年内にもう一度の利上げがあるのかどうか、という点に市場の関心は移りつつあります。最近、トランプ大統領が盛んにツイッターなどで、金利引上げは気に入らない、といった発言をしていますから、FRBがこうした大統領の発言にどんな動きを示すのか、注目したいところです。

 実際に、パウエルFRB議長は8月に行われたジャクソンホールでの講演では、継続した利上げに消極的なハト派の内容が目立ちました。米国の景気がどこまで加熱していくのか。9月7日の雇用統計も含めて米国の景気動向に注目すべきでしょう。

 ――イタリア財政赤字の問題も出て来た欧州通貨は・・・?

 欧州でも、トルコリラ暴落の影響で、スペインの銀行などの株価が大きく下げました。同時に、ユーロも大きく売られましたが、ECB(欧州中央銀行)がこの9月からテーパリング(量的緩和縮小)をスタートさせ、12月には量的緩和終息を宣言しています。

 そこに加えて、イタリアの来年の財政赤字がGDP比3%を超える見通しであることが発表され、EUが規定している3%の上限枠を突破する可能性が報道されました。選挙で公約した支出計画に沿ったものですが、トルコリラ暴落やブレグジット(英国のEU離脱交渉)に加えて、新たな問題が浮上した形です。

 ただ、任期切れが近づいているドラギECB総裁は最近は沈黙を守ることが多く、数多くの問題が出ている割にはそう大きな変動はなさそうです。

 ――日本では自民党総裁選がありますが、ドルと欧州通貨の予想レンジは・・・?

 自民党総裁選挙は、9月20日に投開票が行われますが、すでに安倍総裁の再選は確実視されています。アベノミクスをさらに強化する、といった動きは出るかもしれません。もっとも、総裁選直前の9月18日-19日に行われる日銀の金融政策決定会合では、大きな動きは考えにくいと思います。

 ブレグジットの行方も、英国政府が合意なしのブレグジットに向けた準備書を公表するなど、EUとの関係を完全に断ち切ることを主張する「クリーンブレイク」派の主張が高まっています。今後、日本企業などの英国脱出なども増えてくるかもしれません。9月の予想レンジは次の通りです。

・ドル円・・1ドル=109円-112円
・ユーロ円・・1ユーロ=128円-133円
・ユーロドル・・1ユーロ=1.14ドル-1.18ドル
・英国ポンド円・・1ポンド=141円-147円
 
 ――トルコショックの第2弾はあるのでしょうか、クロス円の予測は?

 トルコリラの暴落後の動きは、かなり不透明です。エルドアン大統領の独裁政治が今後も続くことが予想されますが、本来ならIMF(国際通貨基金)に資金援助などを依頼するのが普通ですが、同大統領の姿勢は強気一辺倒で、第2のトルコリラ暴落が起きても不思議ではありません。

 最悪の場合、高いインフレに苦しむトルコ国民や軍隊が動いて、クーデターが起きる、あるいは軍政に移行するといったケースです。可能性はゼロではないので注視する必要があります。特に、トランプ米大統領のトルコに対する動きが気になるところです。本来親米国だったトルコが、ロシアや中国に近づいたため、米国側が予定されていたステルス戦闘機の売却を中止したことでも分かるように、地政学リスクの高まりにも要注目です。

 また、トルコショックが原因で政策金利を60%に引き上げたアルゼンチンペソは、通貨の下落が止まっていません。デノミを実施したばかりのベネズエラも今後の動向に注意したいものです。その他にも、南アフリカランド、ブラジルレアルといった財政赤字が多く、外貨不足に陥っている新興国通貨にも警戒すべきです。クロス円の予想レンジは、

・豪ドル円・・1豪ドル=79円-83円
・トルコリラ円・・1トルコリラ=14円-18円

 ――9月相場で注意すべき点は?

 やはりトルコリラ暴落の影響については注目する必要があると思います。「FX」の対象となっていない通貨でも、その動きによって連鎖的に動く可能性があります。また、米国の貿易戦争に対する動きや利上げによってドル相場がどう動くのかにも要注目です。

 ドル相場が上昇していくことで、新興国通貨が下落し、トルコショック第2ステージのような事態が考えられます。言い換えれば、相場は大きく動くのが当たり前。いつでも大きく動く可能性があることを、常に認識しておくことです。(文責:モーニングスター)。