米中貿易摩擦が激化する中、米国の株価は史上最高値に駆け上がっている。大和総研経済調査部の主席研究員 齋藤尚登氏は8月29日、「米中貿易戦争、株価は米国大勝を示唆」と題したレポート(全1ページ)を発表し、米国景気の力強い拡大が貿易戦争の悪影響を飲み込んでおり、戦争が長期化・深刻化する懸念があると分析している。レポートの要旨は、以下の通り。

 米国の株価が上昇する一方、中国の株価は大きく下落している。差が大きく広がり始めたのは5月下旬である。これは中国国内で行きすぎたデレバレッジ(負債率引き下げ)による金融引き締めの景気への悪影響が懸念される中、米中貿易摩擦問題では5月19日にいったんは制裁回避で合意したものの29日に米国からの「ちゃぶ台返し」の憂き目にあった時期にあたる。結局、米トランプ政権は知的財産権侵害への制裁として、7月6日と8月23日に合わせて中国からの輸入品500億ドル分に25%の追加関税を発動し、中国は同様の制裁措置を発動した。

 貿易戦争に勝者はいないとされるが、相対的な勝者は存在する。経済規模や製造業ウエイトの違いなどにより、同じ金額・税率の関税引き上げでは、米国の方が景気押し下げ効果は小さい。加えて、今回の米中摩擦は単に貿易問題にとどまらず、ハイテク覇権争いとの見方がある。一時的に米企業からの部品提供が滞った中国通信機器大手のZTE(中興通訊)は経営危機に陥るなど、ハイテク分野の米国の優位性に揺るぎはないとの見方が広がった。米中の株価推移の違いには、こうした相対的な米国の優位性が反映されていよう。

 米中の貿易戦争はエスカレートの様相を呈している。米国は追加で中国からの輸入品2,000億ドル分に25%の制裁関税をかけることを検討している。一方で、中国は対米輸入額の制約により同じ規模と税率で報復することは不可能であり、600億ドル分に品目によって5%、10%、20%、25%の報復関税をかける予定である。この場合、外需面では中国への影響がより大きくなるが、内需面では米国への影響がより大きくなる。後者は、米国の方が代替の利かない高い輸入品を購入する企業・消費者のコストが一段と増大するためである。しかし、米国の景気の力強い拡大は、こうした悪材料を目立たなくするため、貿易摩擦問題で米国が矛を収めるインセンティブはなかなか高まるまい。このことは、貿易摩擦問題の長期化・深刻化の懸念と、株価パフォーマンスの米国優位が当面続く可能性を示唆しよう。(情報提供:大和総研)(イメージ写真提供:123RF)