米国の利上げによるドル高をけん制する米トランプ大統領の発言によって、ドル/円の動きが封じ込められるような状況になっている。外為どっとコム総研の取締役調査部長兼上席研究員の神田卓也氏(写真)は、「トランプ大統領の発言は11月の中間選挙を意識し、ドル高・金利高を抑えて好景気・株高を維持したいという意向が強く出ている。9月25日-26日のFOMCまでは、ドル/円は動きにくい展開が続きそうだ」と見通す。半面、8月に動意のあった英ポンドやトルコリラは一段と値動きの大きな展開を予測する。神田氏の見通しは以下の通り。

 ――米トランプ大統領の一言でドル/円が揺さぶられることが多いが、大統領の発言の意図をどのように見る?

 トランプ大統領が「利上げは気に入らない」と発言したことが伝えられて、ドル/円の上昇が抑えられる格好になったが、大統領の発言は、11月の中間選挙対策という色合いが強いと思う。金利上昇やドル高によって米国株価が下落するような局面を避けたいという思いが背後にあるのだろう。

 これは、この7月に「ドルが強過ぎる」と発言したことにも通じている。ちょうど、米中の間で関税の報復合戦が激しくなったころで、中国が人民元安を放置することによって、米国の関税強化による貿易への影響を軽減させていることへのけん制だったと思う。トランプ大統領は、貿易戦争で中国に勝ったということを強くアピールしたいという思いが強く、中国に有利になるようなことは見過ごしにできなかったのだろう。

 トランプ大統領としては、米国の景気は力強く、それによって株高も実現し、かつ、中国との貿易戦争にも勝つという強い米国を国民にアピールしたいのだと思う。そのために、必要だと感じることは、あらゆることをやっているように思える。それは、中間選挙で民主党が議会の多数を占めることになれば、自信の弾劾の可能性が高まると考えているためだと思う。

 したがって、11月の選挙が終わるまでは、長期金利の上昇局面やドル高局面で、大統領のけん制が入る可能性が高く、ドル/円の上値は重くなりそうだ。

 一方、もともと好景気な米国経済を背景に、貿易戦争によっても自国に有利な条件を突きつけ、その上でドルの水準が落ち着いていて大きく上昇しないのであれば、FRBとしては、利上げをためらうことはないだろう。ただ、先日のジャクソンホールでのパウエル議長の発言を聞く限り、利上げを急ぐ考えは強くないようだ。9月のFOMCで既定路線とされている利上げは実施されるだろうが、その後に利上げペースをアップするというような見通しは出てこないと思う。

 このようにドル円の頭を抑える要素はあるが、ドルの下落余地も限られている。8月にも110円を一時的に割れる場面があったが、すぐさま111円台に戻したように、110円の下値は相当固いとみられる。ドル/円の最大の変動要因とみている日米金利差は、拡大せずとも縮小することは現時点では考えにくい。

 当面は、1ドル=110円~113円の狭いレンジでボックス相場の動きになりそうだ。

 ――前回、「英ポンドが脆い」という見通しだったが、8月には1ポンド=140円を割り込む下落相場を演じた。見通し通りの動きになったが、その後、ポンドはやや持ち直している。140円割れで、ポンドは最悪な状態を織り込んだといえるだろうか?

 英国とEUの離脱交渉は、2019年3月の離脱から逆算して、欧州各国の批准手続きを考えれば、この10月がタイムリミットということになっている。その意味では、まだ2カ月間の猶予があるということでもあり、離脱後の貿易条件もなしに英国がEUを離脱するというハードブレクジットの最悪事態までは織り込んでいないといえる。いよいよ合意が不可能ということになったら、一段安ということはあるだろう。

 ここで価格が戻ったのは、ポンド/ドルでドルが下落したために、ポンド/円もポンド高に振れたというだけであって、ポンドの先行きを楽観してのポンド高ではない。

 EUとの交渉については10月ギリギリまでどっちに転ぶか分からないということになるだろう。英国もEUも互いに、相手に譲歩したという印象を残したくないと考えている。特にEUにとっては、ユーロを離脱するという「悪しき前例」になるわけなので、英国については離脱にあたっては、できるだけ苦しんで不利な条件をのまざるを得なかったという結果を残したいと考えているだろう。その点では、ポンドが売られるような材料が出やすい環境になっていると思う。

 ポンドの安値には135円も次のターゲットとして意識されるような場面もあると考えている。当面は、1ポンド=138円~146円のレンジで、下方向に振れやすい相場になるとみている。

 ――その他、注目の通貨ペアは?

 トルコリラが急落のショックから1週間の長期休暇に入ったこともあって落ち着いた動きになっているが、再び大きく動くことが考えられる。

 9月になると、3日に8月CPI(消費者物価指数)が発表され、13日にはトルコ中銀の理事会が開催される。CPIは7月が15.9%だったが、トルコリラが8月に20%程度下落していることから、インフレが加速している公算が大きい。それでも利上げに強硬に反対しているエルドアン大統領の意向を無視してトルコ中銀は利上げなどのインフレ対策を取り得るのか? 非常に不透明と言うしかない。9月に入るとトルコリラが再び不安定化しそうだ。

 前回の下落局面では1トルコリラ=15.50円という史上最安値まで売られ、その後に19円まで急反発するという動きになったが、次に崩れる場面では、15円割れもあり得ると思う。

 一方、トルコ経済そのものは景気に過熱懸念があるほどで、経済は弱くない。米国との間で軋轢の材料となっている牧師の早期解放などが実現されれば、一気にトルコリラが買戻されて20円台の回復もあり得る。

 不透明な金融政策と政治的な駆け引きが背景にあるため、上下のどちらに動くのか予測が難しく、ボラティリティが大きな動きになるだろう。当面は1トルコリラ=14.50円~20.50円の動きを想定しておきたい。

 ポンドもトルコリラも、本来は投資家の不在によって大きく動くことがない8月であっても、比較的大きな値動きになった。市場参加者が戻ってくる9月には一段と大きな値動きになる可能性があると考えている。