相変わらず、トランプ米大統領が繰り出す様々な政策が、世界中を震撼させている。とりわけ、経済やマーケットでは、対中国に代表される関税強化の動きが大きな影響をもたらしている。この7月には、中国からの輸入品のうち340億ドル相当に対して25%の追加関税を発動したばかりだが、ここに来てさらなる追加関税を発表して世界中を驚かせている。こうした「トランプリスク」に対して、株式市場や為替市場は大きな反応は見せていないものの、11月の中間選挙までは目が離せない状況になりつつある。加えて、日本銀行が「フォワードガイダンス」を導入するなど大きな動きを見せた。8月は、市場のプレーヤーが少なくなり流動性が乏しくなる相場と言われるが、どんな動きを見せるのか・・・。外為オンラインの佐藤正和シニアアナリスト(写真)に伺った。

 ――トランプ米大統領の対中貿易戦争が激化しています。その影響は?

 7月6日に340億ドル相当の対中輸入品目に対して25%の追加関税を発動したばかりのトランプ大統領ですが、8月には160億ドル相当の追加関税を検討していると発表。ところが、8月1日になって当初10%の追加関税をかけると表明していた2000億ドル(22兆円)相当の対中輸入品に対して、その税率を10%から25%に引き上げると発表しました。早ければ9月にも実施予定としています。

 もともと、中国からの輸入品は全部で約5050億ドル(約55兆円)程度とされており、2000億ドルが実施されれば、約半分の輸入品に対して25%の輸入関税がかけられることになります。当然ながら中国は反撃措置として、即座に報復関税を課すことを検討していると報道されています。

 ムニューチン米財務長官が、中国の経済政策を担う劉鶴(りゅう・かく)中国副首相と水面下で交渉を始めたとも報道されていますが、11月の中間選挙が終わるまでは、こうした貿易戦争は激化する一方かもしれません。

 当然ながら、米国の輸入品価格は値上がりしますから、消費は低迷してGDPは下落。景気が後退して、利上げも遅れるかもしれません。その結果、ドル売り円高に振れることで為替市場にも大きな影響があると見られています。

 ――日本銀行もここに来て大きな動きを見せました。影響はあるでしょうか?

 7月30日、31日の両日に実施された日本銀行の金融政策決定会合で、日銀は現在10年物国債利回りをゼロ%程度にするために、これまで利回りが上下0.1%の範囲に迫るように誘導してきましたが、今回の決定会合で新たに0.2%程度まで変動幅が広がることを容認する――という方針を打ち出しました。さらに、政策運営の先行きを示す「フォワードガイダンス」を導入して、今後も継続してゼロ金利政策を継続していくことを示しました。

 加えて、消費者物価指数の上昇率の見通しを2019年度には1.8%から1.5%に引き下げ、20年度も1.8%から1.6%に改めました。物価安定目標の2%には20年度も届かないこととなり、金融緩和は今後も長期化することがはっきりしたと言えます。

 要するに全体的に玉虫色であり、出口戦略という位置づけではなく、政策の長期化と副作用への対応という形で表明するにとどまりました。黒田日銀総裁の会見時には、為替市場もかなりの戸惑いを見せて大きく乱高下しました。

 さらに、10年物国債の金利も上昇し、8月2日には予定外の長期国債の買い入れを日銀が実施しました。日銀が毎月の運営方針で予定していなかった買い入れを行ったことで、債券市場の不透明感が増したとされています。

 ――FOMCでは大きな動きはなかったようですが、8月のドル円の予想レンジは?
 
 7月31日-8月1日にかけて行われたFRB(連邦準備制度理事会)の政策決定の場である「FOMC(連邦公開市場委員会)」では、政策金利であるFF(フェデラルファンド)金利の誘導目標「1.75%-2.00%」を据え置くこととなりました。

 トランプ米大統領は、盛んにFRBの金利引き上げを「うれしくない」と批判していますが、米国の中央銀行は簡単に考えを変えることはないと思われます。現時点で、FF金利先物が織り込む金利引き上げ確率では、9月実施が82%と8割を超えています。少なくとも、9月の利上げは市場からも確実視されていると考えたほうが良いでしょう。

 ちなみに、8月3日(現地時間)に発表された7月の米雇用統計では、非農業部門雇用者数が前月比15万7000人増となり、市場予想をやや下回りました。平均時給は、前年比2.7%増、失業率も3.9%と、ともに市場予想と一致し、サプライズはありませんでした。

 これらを総合すると、8月のドル円の予想レンジは、1ドル=109円50銭-113円と見ています。

 ――欧州通貨はどうでしょうか。英国が利上げを実施しましたが・・・?

 EU(欧州共同体)の中央銀行にあたるECB(欧州中央銀行)は、すでに12月で量的緩和を終了させることが決まっており、大きな変化はないと思われます。その一方で、ブレグジット(EU離脱)の交渉過程に入っている英国では、中央銀行にあたるイングランド銀行が予想された通り、8月2日の金融政策委員会(MPC)で政策金利を0.25%引き上げて0.75%に引き上げました。

 今回の決定によって、ポンドドルは一時的にポンドが買われたものの、景気が改善するのかどうか不透明感が増したことから、その後は逆に売られました。連動する形でポンド円も大きく動きました。8月の欧州通貨の予想レンジは以下の通りです。

・ユーロ円・・1ユーロ=109円50銭-113円
・ユーロドル・・1ユーロ=1.15ドル-1.19ドル
・英国ポンド円・・1ポンド=142円-149円

 ――対円ではトルコリラが最安値を更新していますが、クロス円の予測は?

 トルコでは、エルドアン大統領が再選されたことでトルコリラ相場も落ち着くかと思われましたが、英国ポンドなどに連動してトルコリラも大きく売られました。現時点でトルコリラ円は最安値を更新している状態です。

 一方、豪ドルも対円で大きく売られており、やはりオーストラリア経済に大きな影響を与える中国の影響が出ているようです。とりわけ中国の経済統計では、財新マークイットの「中国製造業購買担当者景気指数(PMI)」が前月の51.0から50.8に下落し、8カ月ぶりの低水準になりました。米国との貿易戦争によって景気拡大に疑問符が付きつつあるのかもしれません。

 加えてトランプ政権のイラン敵視政策が本格化しており、イランも軍事演習を前倒しで実施するなど不穏な動きが出ています。トランプ大統領は、イランのロウハニ大統領に対して大文字だけのツイッターで脅しをかけるなど、危険なコメントの応酬になっています。原油価格も不安定であり、今後はこうした動きがクロス円に微妙な影響を及ぼしてくるかもしれません。

 8月の予想レンジとしては、トルコリラ円が1トルコリラ=21円-24円、豪ドル円が1豪ドル=80円-84円と見ています。

 ――8月相場の注意点とは?

 8月相場といえば、夏休みに入るため市場関係者も少なくなり、しばしば流動性の枯渇で乱高下する相場が予想されますが、今年は米国と中国の貿易戦争や北朝鮮、イランと言った地政学リスクが燻っており、平穏な1カ月で終わるとも思えません。

 加えて、日本でも9月の総裁選を控えて様々な動きがあり、日本銀行の新しい方針が債券市場や為替市場に与える影響も気になるところです、大きなポジションを持ったまま夏休みに出かけてしまうことのないように、きちんとポジション管理を徹底して、夏休みを過ごすのがいいかもしれません。夏休み中の乱高下には要注意です(文責:モーニングスター)。