トランプ大統領の「ドル安が好ましい」という一言で1ドル=113円台だったドル/円が111円割れに急落した。トランプ大統領の口先介入がどこまで有効かということについて、外為どっとコム総研の取締役調査部長兼上席研究員の神田卓也氏(写真)は「ドル高の流れを変える可能性は極めて低い」というが、「米国の保護貿易主義が米国経済そのものの成長に水を差す事態につながらないか注視する必要がある」と語った。神田氏の外為市場の見通しは以下の通り。

 ――ドル/円はトランプ米大統領の「ドル安が好ましい」という発言で1ドル=113円台に乗せていたドル高基調が111円割れにまで後退した。ドル高基調に変化はないのだろうか?

 米国が仕掛けている貿易戦争については、米国の勝利であり、ドル高要因という見方が強まっていたところでのトランプ大統領のドル安を希望する発言だっただけに、市場に冷水を浴びせる効果があった。大統領の発言は、おそらく、ドル高によって米国の輸出に悪影響が及ぶことは避けたいという本音が出たのだろう。

 しかし、法人減税、インフラ投資などで米国景気に刺激を与え、FRBは利上げを継続して行うことを明確にしている今、ファンダメンタルズに根差したドル高の流れを口先だけで止められるものではないだろう。今回も110円台に一瞬は突っ込んだものの、すぐに111円台に戻した。今後もトランプ大統領の発言に市場が反応することはあるだろうが、それによってドル高の方向性が変わるという可能性は極めて低いといえる。

 ドル/円に関する大きな関心事は、今後のアメリカ経済の行方そのものだと思う。足元では日銀の政策決定会合が材料になるという見方もあるが、それすらメインの材料ではない。金融緩和策が一部修正されるとの見通しになっているが、それは緩和効果の継続性を高めようという話であって、緩和策の縮小につながるものではない。インフレ率2%の目標に対し、足元は0.8%という中にあっては、緩和縮小に向けた議論にはならないだろう。

 米国の景気については、貿易戦争の影響などによって来年にもピークを打つのではないかという見方が出てきた。これから発表される経済指標、中でも景気先行指数の変化には十分に注意していきたい。さっそく、8月1日には7月のISM製造業景況指数が発表される。景気の先行指標とされるだけに、弱含んだ数値にならないかどうかに注目される。また、3日に発表される雇用統計、そして、ISM非製造業景況指数も注目される。8月の第1週は重要なイベントが続くだけに注意が必要だ。

 ただ、1カ月分の指数が弱いからといってすぐに景気後退と決めつけるわけにはいかない。2-3カ月の指標を追いかけながら、米国経済の実態を確認したい。

 今週のイベントが通貨した後は、夏休みシーズンも本格化するため、大きな動きは出にくくなるだろう。当面は、1ドル=109.50円~113円程度の値動きを予測する。

 ――米中の貿易摩擦で一方の当事者である中国の人民元が、このところ弱い。当面の見通しは?

 米中貿易戦争の勝者を米国とみて、米ドルを評価する動きが強い。この市場の動きに対して、中国の当局も人民元安を容認しているフシがある。

2015年のチャイナショックの当時は、中国当局はドル売り・元買いの介入を実施し、そのために外貨準備高を減らした。外貨準備高の減少が元売りを加速させるという悪循環になった。今回は、今のところ中国の外貨準備高は目だって減少しておらず、当局がドル売り・元買い介入を繰り返している様子はない。

 今回の米中貿易戦争は、米国からの輸入量が少ない中国が関税引上げ合戦で互角に戦うのは難しい。そこで、人民元を安く誘導すれば、米国の関税強化に対する強力な対抗措置になると考えるのは自然だろう。

 ただし、人民元に先安感が強まれば中国からの資金流出懸念を招きかねない。そうした流れから、景気減速に拍車がかかる事も考えられる。したがって、当局が人民元安を行き過ぎだと感じるようになれば、市場に介入してくるだろう。それがどの水準になるかは予測が難しい。当面は、日本時間午前10時15分の人民元基準値などから当局のスタンスを推測するしかないだろう。7日に発表される中国の7月外貨準備高の結果にも注目しておきたい。

 現状では、米国が利上げを進める中で、中国は金融緩和的な政策を実施しているため、緩やかなドル高・人民元安は自然な流れになっている。

当面、ドル/人民元はドル高・人民元安の方向だろう。ドル/円が大きく動かないとすれば、人民元/円は人民元高に振れることになる。人民元/円は、1人民元=15円半ばから16.75円程度の推移だと考える。

 ――その他の注目通貨ペアは?

 ポンドが気になるタイミングを迎えている。8月2日にイングランド銀行は利上げを実施する見通しだが、FRBのように継続して利上げを実施するような環境にはなく、2日の利上げで打ち止め感が強く出ると、ポンド安の引き金になる可能性が強い。Brexit(英国のEUからの離脱)交渉で不透明感が強まっているだけに、何かのきっかけで崩れた時にポンドは脆いと思う。

 2日の発表は、政策金利の発表とともに、インフレ見通しとカーニー総裁の会見がセットされたスーパーサーズデイだ。インフレレポートで先々のインフレ懸念が強くない内容であれば、追加利上げがないことが確認される。カーニー総裁の会見でも、利上げの次の対応についてどのような発言になるかが注目されるところだ。

 Brexitについては、メイ首相の政策は「ソフト・ブレクジット」の路線を進んでいて、ポンドにとってはポジティブなのだが、一方で、EU離脱担当相や外相が相次いで辞任するなど、政権運営の上ではネガティブ要因になっている。メイ首相の交渉スタンスは、英国内のハード・ブレクジッド派からは弱腰と批判されている。EU離脱に伴う英国とEUとの貿易条件の決定は、この10月が期限とされる中で、メイ首相が国内世論をまとめきれないのではないかという懸念が強くなっている。

 すでに、英国とEUの貿易条件を含めた最終合意を巡っては、その内容の是非を国民投票に問うべきだという意見が過半数を占めているとも伝えられている。10月の期限が迫る中でのメイ首相への信認の低下は、英国のEUとの交渉の逆風になっている。このような状況では、ポンド買いは続かないだろう。

 英国とEUの交渉がこじれるようなことになれば、今年の安値である1ポンド=143円台前半の安値を更新することもあり得るとみている。