相変わらず迷走するトランプ政権だが、保護貿易の動きがここに来て一層の激しさを増し、世界中に影響を与えようとしている。先月は歴史的なイベントとなった米朝会談や今年2回目となる米国金利の引上げなど様々な動きがあったが、7月は夏休みを控えて前半に大きな動きも予想される。保護貿易主義の動きや原油価格の上昇など、為替市場にどう影響してくるのか・・・。7月相場の動向を外為オンラインの佐藤正和シニアアナリスト(写真)に伺った。
 
 ――先月米国は利上げを実施しましたが、その影響はあるのでしょうか?
 
 6月のFOMC(連邦公開市場委員会)で注目を集めたのは、織り込み済みだった利上げよりも、今年さらにもう2回の利上げを示唆したことです。1ドル=110円を挟んで狭いレンジの中で細かな動きが続いていますが、トランプ大統領が始めた保護貿易の動きが大きな重しになっています。 

 米国第一主義の象徴とも言われた米二輪車メーカーの「ハーレーダビッドソン」が、欧州連合(EU)からの報復関税を回避するために、国外に生産工場の一部を移すと表明したことに対してトランプ大統領が自身のツイッターで反論。市場は、大きく揺れ動きました。

 こうした保護貿易の動きは、第一弾としてこの7月6日に340億ドル(約3兆7400億円)相当の中国製品818品目に対して「25%」の輸入関税が正式に適用されることになっており、それまでの間に何らかの解決策が見出されるのか・・・。為替市場も含めて世界中のマーケットが注目しているところです。

 トランプ政権は、米国の利益になると考えて最大25%の関税を打ち出したわけですが、その対抗措置として中国やEUが米国製品に報復関税をかけると表明しており、ブーメランとなってトランプ政権に帰ってきているのが現状です。

 ――貿易戦争を仕掛けたトランプ政権が窮地に立たされているイメージですが・・・
 
 トランプ大統領とって一番大切なことは、11月に行われる中間選挙で議会の過半数を何としても取ることです。万一大敗をきすようなことがあれば、ロシア疑惑や司法妨害といった疑惑で、大統領自身が裁かれる「弾劾裁判」に発展する可能性があり、トランプ政権はあらゆる手段を用いて、支持率上昇に動くものと予想されます。

 中間選挙に勝つためには、米国第一主義として多くの国に対して、鉄鋼・アルミニウムの追加関税を発動させ、さらには成果が期待できなかった「米朝会談」も強行。今後は、総額で2000億ドル、22兆円にものぼる中国製品に対して10%の追加関税をかけることで自国の産業を守ろうとしているわけです。

 ところが、全米自動車工業会(AAM)の試算では、通商拡大法232条に基づいて25%の追加関税が課せられた場合、1台当たり平均で5800ドル(約64万円)、全米自動車ディーラー協会(NADA)は6000ドル(約66万円)価格が上昇すると試算しています。ハーレーダビッドソンが海外生産に切り替えざるを得なかったのも当然と言えるかもしれません。

 こうした報復関税は、共和党のトランプ政権を支えている議員の地元を狙い撃ちして行われており、トランプ大統領が正式に25%の追加関税を課す期限となる7月6日まで、何らかの解決策を見いだせるかが注目されています。

 ――一方、トランプ政権はイランの原油輸入を停止するように求めていますが?
 
 トランプ政権が、協調減産を続けているOPEC(石油輸出国機構)を批判する一方で、イランに対する制裁強化の一環としてイラン産原油の輸入を停止するように同盟国に対して求めている政策は、原油価格の指標となるWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油先物の価格を1バーレル65ドル前後から、一気に74ドル台までに引き上げました。
 
 日本にとっては、イラン産原油は輸入量全体の5%程度ですが、これまで一貫してイランから原油輸入を継続してきた日本政府にとって、今回のトランプ政権が打ち出した方針はエネルギー政策の転換を求められると言っても過言ではありません。

 米国はシェールオイルの増産などで原油の高騰に対抗する姿勢を見せていますが、3年9か月ぶりの原油高は今後の金融市場に影響を与えると思われます。
 
 ――7月相場のポイントと予想レンジを教えてください。

 まず、7月6日に発表される米国雇用統計がありますが、大きな影響はないと思われます。ただ、米国のGDPは堅調であり、長期金利は2.8パーセント程度で推移しています。対して2年物国債の金利は2.5%程度まで上昇してきており、長短金利のバランスを示す「イールドカーブ」が徐々にフラット化してきています。万一、短期金利が長期金利を上回る超短逆転の「現象」を示すと、景気後退の方向に向かう可能性が出て来てしまいます。そういう意味では、米国の金利に注目すべきだと思います。

 一方、欧州中央銀行(ECB)は量的緩和政策として9月まで月額300億ユーロ(約3兆9000億円)を続け、10月以降は半額の150億ユーロに減額し12月末までに終了すると発表しました。利上げの時期は早くとも来年の夏以降という発表もあり、加えてイタリアの政局不安や米国による保護主義の動きなどでユーロは売られています。こうした点を考慮すると7月の予想レンジは以下の通りです。

■ドル円・・1ドル=108円50銭-111円50銭
■ユーロ円・・1ユーロ=125円-130円
■ユーロドル・・1ユーロ=1.13ドル-1.18ドル
■英国ポンド円・・1ポンド=141円-147円

 ――トルコリラが大統領選を経て相場をあげていますが、クロス円の予想レンジは?

 トルコでは大統領選挙が行われ、独裁政治と批判されていた現職のエルドアン大統領が勝利し、トルコリラが買われています。今後、大統領の政策に対抗して金利を引き上げた中央銀行総裁の人事がクローズアップされる可能性が出てきました。年12%にも達する高いインフレ率にどう対応していくのか注目されます。

 エルドアン大統領は、アメリカよりもロシアに近づくなど、その政治姿勢には不安が残りますが、今後の「トルコリラ円」の動向が気になるところです。予想レンジとしては、1トルコリラ=22円-25円と見ています。

 オーストラリアの政策金利は、1.5%のまますでに21カ月も経過しており、いまや米国よりも低い金利が続いています。高金利通貨と言われた豪ドルもいまや昔の話です。「豪ドル円」の予想レンジとしては1豪ドル=80円-84円と見ています。

 ――7月相場の注意点とは?

 依然として、世界経済はトランプ大統領の気まぐれな政治姿勢に揺らいでいますが、7月6日の25%の追加関税が正式に発令される前後の動きには注意が必要かもしれません。また、7月18日のロシアのプーチン大統領とトランプ大統領の「米露会談」の行方にも注目すべきです。

 ドル円相場でのポイントは、1ドル=111円を超えた時、あるいは1ドル=108円を下回った時に大きく動く可能性があります。7月後半は、夏休み相場に入っていくことになり、市場は参加者が徐々に減少していくことになります。それだけボラティリティの大きな相場になることが予想され注意が必要です

 世界経済は、貿易戦争や欧州の一部で台頭するポピュリズム政権などの影響で、相変わらず不透明な相場が続いています。大きなポジションを持たずに、細かな売買でリスクを抑えて行くことが大切かもしれません。(文責:モーニングスター)。