一度は中止になったものの、再びその開催が濃厚になってきた「米国北朝鮮首脳会談(米朝会談)」は為替市場にも大きな影響を与えている。6月相場を占う大きなイベントになりそうだが、成功と失敗、両方のシナリオを想定しておくべきなのか・・・、その行方は不透明だ。さらに、トランプ米大統領が提示した自動車関税を最大25%に引き上げる、といった保護貿易政策の行方についても市場は大きな関心を示している。米朝会談という大きなイベントを控えて、不透明感の増す6月相場の動向を外為オンラインの佐藤正和シニアアナリスト(写真)に伺った。

 ――米朝会談が開催された場合、市場はどう動くのでしょうか?

 いったん中止が決まった米朝会談ですが、金正恩北朝鮮委員長が文在寅韓国大統領と直ちに2度目の会談を板門店で行うなど、金正恩委員長が米朝会談開催への意欲を明確に示しました。トランプ大統領がそれを評価する形で、再び開催する方向に動いているようです。

 おそらく、6月12日には初めての米朝会談が実施されることになると思われます。このビッグイベントに為替市場がどんな動きをするのか。会談の内容次第ですが、やはりポイントは「非核化がどこまで現実のものになるのか」だと考えられます。

 非核化も含めて会談が成功裏に終われば、やはり「ドル」が買われて、円も含めてそれ以外の通貨は売られることになると思います。さらに株式市場も高くなり、米国の長期金利も上昇することになると思われます。

 逆に、会談が決裂して物別れに終われば、ドルが売られて円が買われることになるはずです。米朝会談の鍵を握る非核化の問題は、1回程度の話し合いでは解決できない大きな問題です。物別れになっても、協議の継続が示唆されれば、決定的なものにはならないと思います。

 ――米国は6月のFOMCで金利引き上げの方向と言われますが・・ 

 トランプ大統領の「自動車関税、最大25%引き上げ」発言が話題になっていますが、11月の中間選挙を視野に入れた発言と思われます。いつものトランプ流交渉術の一環ですが、市場は今後もある程度は混乱することになるはずです。当面はボラティリティー(変動幅)も大きくなるかもしれません。

 とはいえ、自動車の関税引き上げは、日本の自動車産業にも大きな影響を与えます。トヨタ自動車も、レクサスなどの高級車は直接輸出しているケースが多く、日本車に与える影響は少なくないはずです。中間選挙は11月とまだ先の話ではありますが、ある程度警戒しておく必要があるかもしれません。

 6月市場で注目したいのは、やはり6月12日-13日にかけて実施される「FOMC(米連邦公開市場委員会)」で、政策金利が引き上げになることはほぼ確実と言われています。その際に パウエルFRB(連邦準備制度理事会)議長が、将来的な見通しを意味する「フォワードガイダンス」で、年内にあと何回金利を引き上げるのか・・・。その辺りのニュアンスをどう示唆するかが重要になると考えられます。

 現在、米国の10年物長期国債の金利は2.8-2.9%程度ですが、一時は節目の3%を超えて3.12%まで上昇。政策金利の引上げで為替市場がどう動くのか、注目したいところです。為替市場に大きな影響を与える雇用統計は6月1日に発表されますが、最近はあまり注目されなくなりつつあります。

 ――ここに来て、ユーロ通貨に大きな動きがあるようですが?

 5月下旬になって急激にユーロが売られました。その背景にあるのは、政局不安とユーロ経済圏の景気悪化があるようです。イタリアでは、ポピュリズム政党「五つ星運動」と極右政党「同盟」の連立政権樹立が、マッタレッラ大統領によって拒否され、組閣が白紙に戻ってしまいました。今秋にも、再選挙になるのではないかといわれています。

 さらにスペインでも、最大野党の社会労働党がラホイ首相に対する不信任決議案を提出するなど、政局不安が湧き上がっています。金融市場では、イタリアとスペインの政局不安から「イタスペの政局不安」と呼びユーロ安の原因のひとつになっています。

 一方で、ユーロ経済圏の景気後退懸念も高まりつつあります。5月23日に発表された「ユーロ圏総合PMI(購買担当者景気指数)」速報値が、54.1となり、1年半ぶりの低水準になりました。PMIの水準そのものは比較的高い位置にあるものの、ドイツやフランスのPMIも低下しており、やはりユーロ経済圏の好調さの背景には「ユーロ安」があったと言えそうです。

 とはいえ、現在ECB(欧州中央銀行)で行われている「テーパリング(緩和縮小)」の動きは、予定通り9月まで実施される見通しで、その後も粛々と「出口戦略」、いわゆる金利の正常化に進んでいくものと見られます。6月8日に実施されるECB理事会で、どんなコメントが出てくるのか注目したいところです。

 ――6月相場の予想レンジは? 5月はトルコリラが大きく変動、クロス円の行方も含めて教えていください。

 6月の予想レンジとしては、ドル円が1ドル=107円-111円、ユーロ円では1ユーロ=122円-130円、ユーロドルは1ユーロ=1.15ドル-1.20ドルといったところでしょうか。英国ポンド円は、1ポンド=142円-148円と見ています。ちなみに、日本銀行の金融政策決定会合は6月14日-15日とありますが、大きな動きはないものと思います。

 いまやドル円に次いで注目度が高いと言われる「トルコリラ」は、6月も大きな動きになると見ています。5月23日、東京市場の急落を受けてトルコの中央銀行は、資産防衛の名目で一気に3%も金利を引き上げましたが、対円では2円近くも動く変動幅になりました。

 東京市場の急落の背景には、アジアの投資家とりわけ日本人投資家の「ロスカット」が原因のひとつではないかと言われています。現在、日本人投資家はトルコリラを約29万枚保有していますが、そのうちの5万6000枚がロスカットされ、一気にトルコリラが下落。6月の政策金利決定会合まで待てなかったことから、トルコ中銀とミセスワタナベとの戦いとも言われます。

 しかも、6月24日にはトルコの大統領選挙が控えており、現職のエルドアン大統領の再選の可能性が高いと言われています。中央銀行総裁の更迭と言ったシナリオもあり、現在の16.5%という高金利を引き下げれば、トルコリラは底なしに売られる可能性もあります。

 トルコリラ円の予想レンジとしては、1トルコリラ=20円-25円。それ以外のクロス円では、一時期上昇を続けてきたものの、上げ止まった感のあるオーストラリア(豪)ドルは、対円で1豪ドル=80円-84円と予想しています。

 ――6月相場のポイントと注意点を教えてください。

 6月相場も引き続きトランプ米大統領次第、「トランプリスク」顕在といったところでしょうか。北朝鮮との米朝会談や保護貿易主義への動きなど、世界はまだトランプ大統領に振り回される可能性があります。引き続き慎重なトレードが必要になると思います。

 大きな動きにすぐに反応せずに、細かなトレードを心掛けるべきです。(文責:モーニングスター)。