米トランプ大統領の思いついたような発言で市場が揺らいでいる。自動車関税や史上初の米朝首脳会談などに関する発言が、ツイッターを通じていつ発信されるか分からない不確実性が市場をかく乱する要因だ。外為どっとコム総研の取締役調査部長兼上席研究員の神田卓也氏(写真)は、「トランプリスクには市場の耐性がある程度ついてきた。今後はFRBが、年4回の利上げを実施するのかどうかが焦点になる。ヤマ場は9月FOMCとなるため、それまではドルには明確な方向性が出ないだろう。一方、投機筋が狙い撃ちしている感もあるトルコリラについては、6月も不安定な相場展開が続きそうだ」という。神田氏の見通しは、以下の通り。

 ――ドル/円は一時111円台に乗せたが失速した。今後の見通しは?

 米国の長期金利の上昇に連れて1ドル=111円台のドル高水準まで上げたものの、自動車関税の引き上げ、また、米朝会談の中止発表から一転再検討など、トランプ大統領の言動がドルのリスクになることが再び強く意識されるようになった。その結果として、1ドル=109円を一時的に割れるほどの円高につながった。

 ただ、市場の動きを見ていると、トランプリスクについては、ある程度は慣れてきたように感じる。米朝会談の中止の発表に対する動揺は小さいもので収まった。また、一転して6月12日の会談に向けて準備をしていると発表しても、それほど大きな動きになっていない。1ドル=105円台を割れた今年3月のような円高は、遠退いたと考えていいだろう。

 一方、FOMC(連邦公開市場委員会)の議事録によって、FRB(連邦準備制度理事会)が短期的なインフレを容認する姿勢にあることが明らかになった。インフレ率が2%を超えても利上げを加速することがないのであれば、たとえ6月FOMCで利上げしても長期金利が3%を超えてさらに上がっていくことは難しいだろう。ドル円も111円から一段高に進むことは考えにくく、5月と同じように、6月も上下に動きにくい展開を見込んでいる。

 ただし、ドル/円相場の本筋の材料である米国景気は、トランプ政権の減税やインフラ投資の拡大などによって、減速する可能性は低いと見ている。インフレ率も下がりにくい状況が続くと夏場以降に、年3回の利上げで良いのかということが再び議論の的になると思う。9月FOMCの前後からドル/円には次の動きが出始めるとみており、年後半のドル高・円安予想を維持している。

 当面のドル/円の予想レンジは1ドル=107.5円~111円とみる。

 ――ユーロ/ドルは下落基調にあるが、回復のメドは?

 ECB(欧州中央銀行)による金融政策の正常化に向けた動きが先送りされる観測が強まったことが、ユーロ安の背景としては強いとみている。市場では、年内に量的緩和策の終了、そして、来年前半にも利上げという見通しを持っていたが、その実現は厳しいという見方が強くなってきた。ユーロ圏の経済成長が鈍化している。

 また、イタリアの政局不安に加え、ここ数日の間でスペインの政局も心配になり始めた。ユーロ圏の政局不安が、ユーロ売りの材料になっている。

 まずは、ユーロ圏の景気の息切れが、一時的なものなのか、長く続くものかを確認する必要がある。5月31日の失業率や消費者物価指数、6月5日の小売売上高、12日の景況感指数などを確認する必要がある。そして、14日にはECB理事会が開催されるが、ここで9月までとしている量的緩和の終了時期の判断が注目される。3カ月延長するのか、6カ月延長するのかという議論になると思うが、おそらくは7月理事会までその判断を先送りすることになるだろう。そうすると、金融政策を手掛かりとしたユーロの売買は難しくなる。

 イタリアについては、マッタレッラ大統領がユーロ懐疑派のエコノミストを経済相に起用する案を拒否したため組閣が困難になり、再選挙の可能性が浮上している。大統領がユーロ懐疑派の経済相を拒否したことはユーロにとってプラス材料だが、再選挙となるとマイナスに響く。

 スペインではラホイ首相に対する不信任決議案が提出され、解散・総選挙の動きになってきている。実際に選挙が行われれば、前回と同様に、過半数議席を獲得する政党は出ないと見られ、連立政権の発足に手間取る公算が大きい。ただ、カタルーニャ独立に強く反対している中道右派のシウダダノスが躍進すると見られており、この点は安心材料になり得るだろう。

 したがって、6月はユーロ相場でも大きな動きは見込みにくい。1ユーロ=1.15~1.185ドルでもみ合う展開を予想する。

 ――その他、注目の通貨ペアは?

 前月に続き、今月も注目イベントが続くトルコリラに注目している。新興国通貨の中でも、トルコリラ、アルゼンチンペソ、インドネシアルピアなどがやり玉に挙げられているが、これらの国には高いインフレ率と高水準の経常赤字という共通点がある。トルコではこれに加えてエルドアン(大統領)リスクもリラ売り材料となっており、投機筋に狙い撃ちにされている。エルドアン大統領は低金利主義者であり、通貨安やインフレの対抗策である利上げを嫌う傾向が強い。このところの市場の動きを目の当りにして利上げ容認派に改心したとの話も聞かれるが、持続性は疑わしいといわざるを得ない。

 また、トルコ中銀は、緊急利上げに続き政策金利改革を相次いで発表して通貨防衛に躍起になっている。しかし、利上げで通貨安を止められたケースは少ない。つい先日も、アルゼンチンなどは、一週間のうちに3回も利上げを行い、政策金利を合計16.75%も引上げた。しかし、通貨安は止まらず最終的に国際通貨基金(IMF)に金融支援を要請せざるを得なくなった。

 今後のリラ相場の注目点としては、6月4日に5月消費者物価指数が発表される。5月のリラ安を考えると前月の10.85%からインフレが加速する可能性があるだろう。また、7日にはトルコ中銀の理事会が開かれる。さらなる通貨防衛策を打ち出せるか注目されよう。さらに、11日には4月の経常収支も発表される。資源輸入国のトルコでは原油高も赤字拡大要因となりやすい。これらのイベントをきっかけにもう一段のリラ安を狙う投機筋が現れてもおかしくないだろう。

 最終的には24日に、大統領選と議会選のダブル選挙が控えている。エルドアン大統領の再選が濃厚と見られていたが、このところの経済混乱で支持率が低下しているようだ。24日の投票では決まらず、7月4日の決選投票にもつれ込む可能性も浮上している模様。仮に、エルドアン氏が敗北することになれば、リラ相場はポジティブな反応を見せる可能性もある。しかし、国難ともいえる状況の中で、他の候補者がエルドアン氏ほどの指導力を発揮できるかといえば心許ない。トランプ氏が勝利した米大統領選の結果と、その後の市場の反応を思い返せば、トルコ大統領選も予断を持って臨むべきではないだろう。