中国の中央銀行にあたる中国人民銀行の総裁を15年間にわたって務めた周小川氏が3月の全人代で退任した。「Mr.人民元」と呼ばれた周小川氏の退任によって、中国の人民元政策にどのような変化が考えられるのか? 大和総研経済調査部の主席研究員、齋藤尚登氏は4月27日、「異例の人民銀行総裁・書記人事を読み解く」と題したレポートを発表し、周小川氏退任の影響を考察した。レポートの要旨は以下の通り。
 
 15年間にわたり中国人民銀行総裁を務めた周小川氏は2018年3月の全人代で退任した。周氏は改革派で国際的な知名度も高く「Mr.人民元」と称されたが、マーケットとの対話は不得手であった。政策意図が伝わらず、マーケットが疑心暗鬼に陥り、2015年8月と2016年1月には、人民元安、外貨準備急減、株価急落のいわゆる「人民元ショック」が発生した。
 
 後任には易綱副総裁が昇格した。学者出身の易綱新総裁は、米国での滞在歴が長く、豊富な国際人脈を有する実務家で、周小川氏からの信頼も厚いとされる。恐らく、易綱総裁に求められるのは、マーケットに対して金融・為替政策を分かりやすく丁寧にタイムリーに説明することであり、この意味では、下馬評に上がった政治的野心の強い人物よりも、実務に長けた人物の方が好ましい。
 
 人民銀行副総裁・党委員会書記には、郭樹清・中国銀行保険監督管理委員会主席が任命された。3月の政府機構改革では、中国銀行業監督管理委員会と中国保険監督管理委員会が統合され、中国銀行保険監督管理委員会が設置された。保険業界では2015年以降、不祥事や混乱が相次ぎ、2017年4月には保険監督管理委員会主席を務めていた項俊波氏が重大な規律違反の疑いで更迭された。さらに、保険監督管理委員会は2018年2月、民間大手保険会社の安邦保険集団を1年間国家管理下に置くことを発表。創業トップの呉小暉氏は不正な資金集めや業務上横領の嫌疑で起訴された。呉氏は鄧小平氏の孫娘と婚姻関係にあったとされ、積極的な海外買収(一部資金は不正蓄財の海外送金とみられている)などにより資産を急膨張させた。しかし、違法に調達した資金で買収を重ねて急膨張した資産の価格が何らかの要因で大きく下落すれば、経営が圧迫され、保険金支払いに支障をきたすと、判断された模様である。
 
 こうした状況下で、2つの監督官庁が統合されたほか、銀行、保険業に関わる重要な法案や監督管理の基本制度に関する職責は、人民銀行に移管されることが決定されたのである。よって、銀行保険監督管理委員会の責任者が人民銀行の主要な役職を兼務することに違和感はない。
 
 しかし、易綱人民銀行総裁が党委員会副書記、郭樹清副総裁が党委員会書記という具合に、官庁で組織のトップと党のトップが異なるのはあまり例がない。この背景には、(1)総裁は党内序列では中央委員レベル(郭樹清氏は中央委員)が相当とされるが、易綱氏は中央候補委員にとどまり、重みに欠けること、(2)党内では外国での滞在歴が長い人物をあまり重用しない風潮がある一方、易綱氏の世界、特に米国に向けた顔としての役割を最大限発揮できるようにしたこと、などがあると考えられる。
 
 繰り返しとなるが、易綱総裁に求められるのは、マーケットの安定維持と金融外交の顔としての役割であろう。一方で、金融改革や人民元の国際化といった政治的判断を伴う政策は、習近平氏やその経済ブレーンである劉鶴氏らのトップダウンで実施される可能性が高い。人民銀行内での改革の旗振り役は郭樹清・人民銀行書記となろう。ちなみに、郭樹清氏は、周小川前総裁らとともに、「朱鎔基四天王」と呼ばれた金融分野の改革派と目される。金融改革も人民元の国際化も主導するのは「党」という構図がより一層強固になったと言えるだろう。(情報提供:大和総研)(イメージ写真提供:123RF)