米トランプ政権が次々に打ち出す保護貿易政策が市場に動揺を与えている。特に、中国を標的にした新たな課税政策は「米中貿易戦争」といわれるほどにインパクトのある内容になっている。大和総研経済調査部 研究員 永井寛之氏は3月29日に「米中貿易戦争はアジア・新興国に大きな影響」と題したレポート(全2ページ)を発表し、米中の貿易摩擦がアジア・新興国に与える影響を考察した。レポートの要旨は以下の通り。

 米国のトランプ政権は、中間選挙をにらみ、なかばポピュリズム的に保護貿易政策を打ち出している。1月に、太陽光パネルや洗濯機にセーフガードを発動したことに加えて、安全保障の理由で鉄鋼とアルミニウムの輸入制限を決定した。この主な標的は中国である。しかし、中国からの米国向けのアルミニウムや鉄鋼の輸出の割合はどちらも米国向け輸出に占める割合の0.5%程度と極めて小さくなっており、鉄鋼やアルミニウムの米国の輸入制限は貿易不均衡の是正にはほとんど効果がない。

 トランプ政権は中国に対し対米貿易赤字の1,000億ドル縮小を要求しているとされる。そのような中さらに、トランプ政権は知的財産権の侵害への抗議として、中国製品に対し、約600億ドル分の製品に課税するとしている。主に、中国の通信機器といった電気機器などに対して制裁措置が課されるとのことである。電気機器の輸出は米国向け輸出の20%超とシェアが大きく、鋼とアルミの輸入制限と比べても経済的なインパクトははるかに大きくなる。対中貿易赤字の削減という点で効果的な可能性がある。

 この制裁が発動した場合打撃を受けるのは、中国のみではない。米国への中国の電気機器の輸出の大半は最終財である。また、中国の電気機器の中間財の貿易特化指数=(中国の電気機器の輸出-中国の電気機器の輸入)÷(中国の電気機器の輸出+中国の電気機器の輸入)をみると、上向きつつも未だマイナス圏にある。これは、中国の電気機器生産は、中国内での内製化が進んでいるものの、諸外国地域との分業体制によって支えられていることを示唆する。そして、電気機器の中間財輸入の8割程度は東アジアからの輸入である。なかでも、韓国や台湾といった国・地域は中国への電気機器輸出のほとんどを中間財が占めている。さらに、中国への電気機器輸出のシェアは全体の10%程度とかなり高い。中国が制裁を受ける場合、これらの国・地域が影響を受けることが予想される。

 しかし、このような制裁には中国の報復のリスクもある。実際、中国政府は米国の鉄鋼やアルミの輸入制限に対して報復措置を行うことを示唆しているが、新たな制裁が課されるのであれば、より強力な報復を行う可能性がある。そうなれば、米中間の貿易戦争が本格化し、世界貿易の停滞が予想されるが、輸出依存度が高いアジアや新興国により大きなマイナスの影響が出るだろう。2017年は、アジアや新興国は輸出にけん引されて経済が好調ではあったが、大国同士の衝突により腰折れするリスクの顕在化が懸念される。(情報提供:大和総研)(イメージ写真提供:123RF)