陳茂波・財政長官は2月28日、2018/19年度財政予算案を発表した。前年度の財政黒字は1380億ドル、財政備蓄は1兆ドルを超えるという潤沢な財政を抱えながらも全市民への現金支給は行わないことが事前に明らかにされていたが、税還付や減税などの措置で黒字の約40%を市民に還元する。(編集部・江藤和輝)

 17/18年度の財政収支は1380億ドルの黒字で、当初予算の黒字163億ドルを上回った。財政備蓄は3月末で1兆920億ドルに達する見込み。当初予算に比べ公有地売却益が62%増、印紙税収入が75%増となり、ともに返還後で最高。歳入は予想より20・6%増えた。18/19年度では歳入6045億ドル、歳出5579億ドルで、466億ドルの黒字を見込んでいる。

 市民の生活負担を軽減する一過性の措置として、個人所得税は3万ドルを上限に75%還付、不動産税は1軒1四半期2500ドルを上限に4四半期免除、生活保護、高齢者手当、高齢者生活補助、障害者手当の受給者には2カ月分を追加支給。低所得在職家庭手当と交通費手当の受給者に対しても同様の措置を取り、子女や父母・祖父母の扶養控除も拡大。いずれも前年度より支援が拡大された。さらに貧困家庭の学生・児童には現金を支給。収入審査を経て学費減免または各種手当を受けている大中小学校と幼稚園の学生・児童に対し2000ドルを手当受け取り用の口座に入金する。これら生活支援措置の規模は前年度の351億ドルを約50%上回る約524億ドルに達し、財政黒字の約40%を市民に還元することとなる。

 また教育分野は今回の予算案で重視され、教育予算は前年度比28%増の1137億ドル、歳出の20%を占める。昨今問題となっている児童虐待に対応して「奬券基金」から5億ドル余りを拠出し幼稚園・保育園にソーシャルワーカー・サービスを提供するとともに、公立小学校の資金も拡大し最終的には各校へのソーシャルワーカー配置を実現する。現行の「学生カウンセリング・サービス手当」の支給額を増やすなどして各小学校にソーシャルワーカーを1人置くことが実現できるようにする。

 経済分野では、(1)イノベーション科学技術(2)金融サービス(3)貿易・物流(4)観光業(5)工商・専門サービス(6)建設業(7)クリエーティブ産業——に対する支援措置が盛り込まれた。

 (1)では香港が優位性を持つバイオテクノロジー、人工知能(AI)、スマートシティー、フィンテック(金融テクノロジー)の4分野に注力。落馬洲の「港深創新及科技園」第1期開発に200億ドルを確保したほか、「創新及科技基金」に100億ドル、「香港科技園」の施設改善に100億ドルを充てる。(2)では内外企業の香港での起債を促進する債券支援計画を打ち出し、初めて香港で起債する企業には発行費用の半分を援助する。また今後5年の金融サービス業発展推進のため5億ドルを確保した。(4)では旅遊事務署が昨年発表した香港観光業発展の青写真を実現するため政府観光局(HKTB)に2億2600万ドル、香港海洋公園の教育観光プロジェクトに3億1000万ドルの予算を充てる。(5)では香港貿易発展局(HKTDC)に2億5000万ドルの予算を充てて企業が「一帯一路」「粤港澳大湾区」の商機を生かすのを支援する。

■現金支給なしで不満40%

 医療分野も今回の柱の1つだ。陳長官は2月25日、公式ブログで新年度財政予算案の内容の一部を予告した際、「政府は財政が潤沢なときに医療システム関連施設をいかに強化するかを積極的に計画し、高齢化の試練を受けながらも市民が引き続き良質な医療サービスを受けられるようにすべき」と指摘。具体的には公立病院の再開発・新設・拡張の10年計画に3000億ドル確保、医療人材の育成強化、任意加入医療保険の税控除などが盛り込まれた。

 3月11日に立法会の補欠選挙を控えていることもあり、各政党からは予算案発表を前に全市民への現金支給を要求する声が上がっていた。民主党の胡志偉・主席は2月20日、香港電台(RTHK)の番組に出演し、財政は毎年黒字なのに一部市民は過去のバラマキでは恩恵を受けられなかったため、株の配当のように現金支給のシステムをつくるべきと提案。民主建港協進連盟の劉国勲氏も同番組で、市民1人当たり少なくとも6000ドル支給すべきと述べるなど、現金支給を支持する姿勢を見せていた。だが陳長官は事前に無目的な現金支給は行わないと明言し、「政府は弱者への支援を拡大するとともに、一般大衆が経済的成果を分かち合えるようにしなければならない」と強調した。

 香港大学民意研究計画が予算案発表当日に行った世論調査(対象614人)によると、予算案に対する100点満点の評価は平均48・2点となり、過去10年で最低。「満足」との答えはわずか26・3%、「不満」との答えは40・5%に上った。市民の不満は高いものの、一般会計の歳出は前年度比11・8%増と2けた増に及び、返還後で最高。公共支出の上限とされていた域内総生産(GDP)の20%を超えている。黒字の有効活用で将来に投資するという現政権の方針を反映した積極財政といえる。


2018/19年度財政予算案の主な内容

■生活負担の軽減
・個人所得税は3万ドルを上限に75%還付、法人税も同様
・不動産税を4四半期免除
・子女、父母、祖父母の扶養控除を引き上げ
・個人所得税の課税幅を1段階増やし、各段階の課税収入と税率を変更し、134万人の税負担を軽減
・生活保護・高齢者手当、高齢者生活補助、障害者手当を2カ月分追加支給
・低所得在職家庭手当、交通費手当を2カ月分追加支給
・貧困家庭の学生・児童に2000ドルを支給

■経済の多角化
・イノベーション科学技術
 「港深創新及科技園」第1期開発に200億ドル確保
 「創新及科技基金」に100億ドル拠出
・金融サービス
 初めて香港で起債する企業に発行費用の半分を援助
 金融サービス業発展推進のため5億ドル確保
・貿易・物流
 空港の航空郵便センター再開発に50億ドル確保
・観光業
 政府観光局(HKTB)に2億2600万ドル拠出
・工商・専門サービス
 香港貿易発展局に2億5000万ドル拠出
・建設業
 建設技術革新・科学技術基金の設立に10億ドル拠出

■医療
・医院管理局の一般会計予算に60億ドル追加
・医療専門訓練の強化に2億ドル確保
・公立病院の再開発・新設・拡張の10年計画に3000億ドル確保
・高齢者の医療バウチャーを1人1000ドル追加

■土地・住宅供給
・公共住宅は今後5年で約10万戸供給
・民間開発の住宅は今後3~4年で9万7000戸供給
・民間開発の住宅の今後5年の完成量は年平均2万800戸で、過去5年に比べ50%増
・18/19年度は民間デベロッパーに約2万5500戸分の住宅用地を放出
(情報提供:香港ポスト)(イメージ写真提供:123RF)