一時1ドル=105円台に進んだドル/円は、戻り歩調になっている。外為どっとコム総研の取締役調査部長兼上席研究員の神田卓也氏(写真)は、「3月の決算期末を意識したレパトリ(外国の資産に投資していた資金を本国に還流させること)の動きが強まっているが、この実需のドル売りは3月中旬をメドに収まる。米FOMCで今後の金利見通しが示されることをきっかけに、ドルの戻りが明確になってこよう」と見通した。

 ――ドル/円は、一時1ドル=105円台のドル安・円高に進んだ。その背景は?

 米国の長期金利が上昇し、日米の金利格差が開く中、株価が反発していたにもかかわらず、1ドル=105円台に円高が進んだことは、多くの人にとって想定外の出来事だっただろう。ポイントになったのは、世界的な株安でリスクオフになった時に、ドル/円が昨年の安値である1ドル=107.32円を割り込んでしまったテクニカル要因だったと思う。

 レンジの下限を下抜けたことによって、トレンドフォロワーは売り乗せ、また、見切り売りも出やすく、ドルの下落に弾みがついた。

 受給関係を振り返ると、2月の第1週から第3週までに、対外証券投資で約2.3兆円の売り越しになっている。この多くは米国債であると考えられ、米国債を売って円に換える動きが活発化したと見られる。2月と8月は米国債の発行が多いため償還・利払いも例月より多い。ドル/円が安値を付けたのが、2月15日の利払い・償還日の翌日だったことは偶然ではなさそうだ。

 2月は、東京市場で円高が進み、欧米市場ではドルが買い戻されるという動きが目立った。このような日々の値動きの傾向からも、レパトリの動きが継続している様子がみてとれる。こうした動きは3月中旬くらいまでは続きそうだ。

 ――今後のドル/円の見通しは?

 3月の米FOMCが転機になりそうだ。パウエルFRB 議長に代わってから1回目の会合になるが、前議長時代の利上げ路線の継続を確認する会議になるとみられている。ここでの景気判断や経済・金利見通しなどで、FF金利予測に上方修正あれば、ドルが一段と買われやすくなってくるだろう。

 もはや高金利通貨となったドルのショートポジションを持ち続けることはコストの面で難しくなるのではないだろうか。市場の関心が、金融政策に戻れば、再びドルが強い基調を取り戻すと考えている。

 一部には、今回のドル安について、米国の財政赤字の拡大見通しを材料視したものだという見方もあるようだが、目の前には米国の景気回復を手掛かりとした金利上昇があり、それを飛び越して、財政赤字の拡大をドルの売り材料として心配する必要はないと思う。レパトリなどによる実需のドル売りが落ち着けば、徐々にドルの水準訂正が起こるとみている。

 当面のレンジは、1ドル=104.5円~109.5円程度と考える。

 ――ニュージーランド・ドル(NZドル)が弱い理由と、今後の見通しは?

 NZドルについては、昨年12月以降にやや値を戻したが伸び悩み気味だ。昨年後半は、主要輸出品である乳製品価格が弱含んだ事や、総選挙でポピュリズム色が強い左派政権が誕生した事などがNZドルの重しとなった。その後、持ち直したが、年明け以降は米長期金利の上昇を起点に世界の株式市場が不安定化したため、リスク選好通貨のNZドルに下落圧力がかかり、リスク回避通貨の円に上昇圧力がかかったため、NZドル/円は78円台を割り込んでしまった。

 NZは、金融政策の変更も期待しにくい。現在の政策金利は1.75%だが、今年11月時点においても変更なし確率が約55%となっており、年内は利上げなしという見方が優勢になっている。NZドルは、国内要因による動きが出にくいため、市場全体のリスクオフ局面では弱く、リスクオンの地合いで価格が戻るということを繰り返しそうだ。

 2月の頭には1NZドル=81円台だったが、ここを抜けて上昇する力は今のところ考えにくい。当面のレンジは、1NZドル=77円~81円で伸び悩み気味の展開が続くとみる。

 ――その他、注目の通貨ペアは?

 トルコリラの動きに注意したい。現在の政策金利が8%という高金利通貨で、スワップポイントを得たいという投資家に人気がある。ただ、インフレ率が高い。現在は12%台だが、昨年は一時17%という数値も出た。インフレを抑えきれない通貨として、売られやすい傾向が続いている。

 インフレ率が抑えられないのは、エルドアン大統領が金利の引き上げをけん制しているためだ。中央銀行が大統領の意向に逆らってまで、金利を引き上げるという強い姿勢を示さないため、通貨への信認が高まってこない。3月7日に中央銀行が金利決定会合を持つが、ここで利上げができるかどうかが焦点のひとつだ。

 クルド人問題で地域紛争が拡大してきそうな地政学リスクも意識され始めたので、中央銀行の弱腰が明らかになれば、一段と売り込まれる可能性もある。

 一方で、トルコ経済は好調だ。12月の鉱工業生産は8.7%増となり、欧州地域の好景気の影響が出ているようだ。また、対ドル、対円ともに歴史的な安値まで価格が下落している。何かのきっかけで価格が大きく戻してもおかしくはない。

 たとえば、南アフリカ・ランドは、ズマ前大統領の辞任と前後してランド安の流れが反転した。市場に不人気な指導者の退任(観測)は通貨高要因になりうる事を証明した。トルコのエルドアン大統領は国民に人気のある大統領なので辞任は考えにくいが、トルコの政局にも注目して行きたいと考えている。