全国人民代表大会(全人代、国会に相当)常務委員会は11月4日、「香港・マカオ基本法付属文書3に含める全国的法律を増やす決定草案」を可決し、「国歌法」を香港にも適用することが決まった。林鄭月娥・行政長官が10月に発表した施政報告(施政方針演説)では中学校での中国史必修化も盛り込まれるなど、国民意識の向上を目指す動きが進んでいる。(編集部・江藤和輝)

■ブーイング問題で切迫感

 10月10日に旺角スタジアムで行われたアジアカップ予選の対マレーシア戦では、観客席で中国国歌に対するブーイングや「香港独立」の横断幕を掲げるなどの行為がみられた。この行為がアジアサッカー連盟(AFC)の規律に関する規定の第65条に違反することからAFCは31日、香港サッカー協会(HKFA)に対して厳重警告を発し、再度同条例に違反した場合は香港代表の試合を無観客試合とするなど、厳しく処分すると発表した。

 2年前には香港で行われたワールドカップ予選で数試合続けてこうした観客のマナー違反があり、国際的に問題視されていた。当時は一連の事件で国際サッカー連盟(FIFA)がHKFAに警告を3回、罰金を2回科している。

 全人代常務委は9月1日、「国歌法」を可決した。国歌の歪曲・侮辱に対する罰則強化や刑事責任追及などの改正を行い、10月1日から施行された。続いて31日には全人代常務委に「香港・マカオ基本法付属文書3に含める全国的法律を増やす決定草案」が提出された。

 全人代常務委法制工作委員会国家法室の武増・主任は香港・マカオが返還後、「国旗法」「国徽法」を現地立法の方式で施行したことを挙げたほか、「国歌の尊厳を守ることが市民の言論の自由、表現の自由と対立するとの観点は間違い」と強調。全人代常務委法制工作委員会の張栄順・副主任は草案の説明で「近年、香港では国歌を尊重しない事件が発生し、1国2制度の原則と社会価値の限界に挑戦している」として香港での国歌法施行はこれら行為を防止・処理するために差し迫った重要性があると指摘。ただし基本法付属文書3に盛り込むことが採択されても、香港での現地立法が必要で、香港での適切な罰則などが制定される。

 全人代常務委弁公庁新聞局の何紹仁・局長は可決後の記者会見で「これは中央が憲法と基本法に従って香港・マカオに対する全面統治権を実施する重要な体現」と説明し、「香港は基本法と国歌法の規定に基づき現地立法を適時完了し、香港での国歌法の規定実施を確保しなければならない」と強調した。

 全人代常務委副秘書長兼基本法委員会主任の李飛氏は11月2日、中澳法学交流基金会の訪問団と会談し、国歌法の現地立法で不可欠な要素を明示した。訪問団団長の馬恩国氏が明らかにした内容は、(1)歌譜は国歌法付属文書に示された歌譜を基準とする、(2)国歌を商業用途に用いてはならず、二次創作も認めない、(3)国歌斉唱時は一定の礼儀を要し、その場にいる者は起立しなければならない、(4)小中学校で国歌教育を強制し、生徒に歌詞の背景を理解させる、(5)公の場での国歌侮辱は規範をつくって処理する――の5つ。特に国歌教育は歌詞の暗唱ではなく背景にある中華民族の抗日精神などの理解が目的という。

 全人代香港代表を務める民主建港協進連盟(民建連)の葉国謙氏は、香港での国旗・国徽法の刑罰を参考にするため、最高刑罰は罰金5万ドルおよび禁固3年を超えることはないとみている。一方、社会民主連線(社民連)メンバーら10人余りは5日、中央人民政府駐香港特区連絡弁公室(中連弁)前で国歌法施行に反対する抗議活動を行った。過去に国旗を燃やして投獄された古思堯氏(保釣行動委員会メンバー)も参加し、今後も国旗掲揚式などで国歌が演奏される際に故意に違法行為を犯すと表明した。

■中学で中国史を必修化

 林鄭長官は就任前の6月のインタビューで、今後は幼児段階から「私は中国人」という意識の育成を開始し、中国史を中学校の必修科目に盛り込むべきと提案し、中国史の必修化は施政報告に盛り込まれた。

 特区政府教育局は10月30日、中学校の中国史科カリキュラム改正の第2段階公開諮問を開始した。公開諮問は1カ月行われる。第2段階の諮問文書では、政治変遷の部分が占める割合を第1段階の65%から76%に拡大、一方で文化の特色に関する部分は23%から14%に縮小した。学年別の内容では1年が有史以前~隋・唐、2年が宋・元・明・清、3年が中華民国~中華人民共和国となっており、2年で香港割譲、3年で革命運動、抗日戦争、中英会談、基本法制定や特区成立について学習。香港史は10%を占める。議論のある「六七暴動」(1967年の左派暴動)、「六四事件」(1989年の天安門事件)は課程綱領に盛り込まれなかったが、現在販売されている教科書には「六四事件」が記載されている。教育局の陳碧華・総課程発展主任は「議論のある事件について教えるかどうかは教員と出版社が決める」として、課程綱領は枠組みに過ぎないことを強調した。

 国家教育部の陳宝生・部長は10月23日、香港電台(RTHK)のインタビューを受け、香港での国民教育推進に言及した。陳部長は「昨今の香港独立の思潮は香港の教育と関係がある」として国民教育の必要性を指摘したが、「香港のカリキュラムが中国本土のやり方に準じるかどうかは特区政府が決定する」と述べた。2012年に国民教育の推進が挫折したことについて「政府は執政の職責を履行しなければならない。国民教育は1国2制度、基本法、国情、中国史を教えるもので、洗脳は存在しない。社会の懸念には道理がない」との見方を示した。さらに国民教育推進の鍵として教員には正確に国情を認識させるべきと付け加えた。

 中連弁の王志民・主任は11月2日、「2017博鰲アジア青年フォーラム(香港)」で基調講演を行い、先の共産党大会の報告について香港で初めて公に解説した。かつて中連弁青年工作部の初代部長を務めた王主任は、粤港澳大湾区について「特に若者にとって起業・就業の楽園になる」と指摘。過去に香港に優越感を感じていた香港市民は近年「香港が取り残されていく」と懸念するようになったが、王主任はこうした考え方は不要として「1国の基本を堅持し2制度のメリットを活用すれば、粤港澳大湾区で人生の夢を実現できる」と説明した。同じく講演した梁振英・前行政長官も港珠澳大橋や高速鉄道の開通が粤港澳大湾区の契機となるため、若者に機会を逃さぬよう呼び掛けた。香港の持続的発展に向けて、今や青少年の教育は最も重要な課題ともいえる。(情報提供:香港ポスト)(イメージ写真提供:123RF)