北朝鮮が相次いでミサイルを発射していることが為替市場を揺さぶっている。1ドル=108円台に下落したドル/円について、外為どっとコム総研の取締役調査部長兼上席研究員、神田卓也氏(写真)は「北朝鮮の動きは予測できないが、基本的なシナリオは米国の景気回復に伴う利上げを材料としてドル高・円安。北朝鮮問題に市場が動揺してドルが下落する局面は買い場になり得る」としている。また、急速に進んでいるユーロ高については「当面の天井を形成する動き」とみて、ユーロの上値が近づいているという見方だ。当面の外為市場の見通しは、以下の通り。

――ドル/円の見通しは?

 7月の米FOMC(連邦公開市場委員会)の議事録が発表され、FOMCでインフレ率の上昇ピッチが鈍っていることを気にしていることが明らかになった。このままインフレ率の伸びが鈍い状態が続くのであれば、年内の利上げは見送られるのではないかという見方がでてきた。金利が低下し、ドルを押し下げる要因になっている。今後は米国のインフレ率の動向が一番気になるところだ。

 そこへ29日早朝の北朝鮮ミサイル発射のニュースが飛び込んできて、市場は驚いてドル売り・円買いの動きになった。26日にミサイルを発射したばかりであったこと、また、事前通告なしにミサイルが日本の上空を通過したことで二重の驚きとして受け止められた。北朝鮮への警戒レベルが一段とアップしたといえるだろう。29日のドル売りは、米国の利上げ観測後退に加えて北朝鮮問題というダブルパンチに見舞われたショックだったといえる。

 ただ、1ドル=108.30円前後の水準で一旦は下げ止まって反発している。108.30円の水準は、6月の日銀短観で示された企業想定レート(事業計画の前提となる為替レート)である1ドル=108.31円に重なる重要なフシ目。ここから一段と円高・ドル安が進むと為替差損が発生し、企業業績を圧迫するため株価の下落要因になりかねない。それだけ重要な水準であると言えるだろう。ただ、北朝鮮リスクは予測がつかない。市場関係者にとっては、米トランプ・リスクと重ねて考えられ、ワーストシナリオである軍事衝突リスクも考慮せざるを得ない。北朝鮮問題では9月9日に迎える建国記念日に核実験を行うのではという観測もあり、もう一段の円高圧力がかかる懸念がある。そうなった際には、1ドル=107円を割り込み、106.50円程度まで円高が進む可能性もあるだろう。

 一方、米国の景気は堅調だ。インフレが持ち直してくれば、年内の追加利上げシナリオが再浮上すると見られ、1ドル=112円を超えるドル高が見えてくる。基本的な予測はドル高・円安方向だが、反対方向へのリスクも小さくない。先読みが難しい局面につき、リスク管理を徹底して臨みたい。

 なお、予測不能な北朝鮮情勢はワイルドカードとして常に意識しながらも、米国の経済指標等の発表は今週末の雇用統計、13日の生産者物価指数、14日の消費者物価指数、そして、21日のFOMCと続いていく。特に、雇用統計における平均時給の伸び率と、FOMCにおける金利見通し・インフレ見通しに注目したい。現在、市場の12月利上げ織り込み度は30%前後まで低下しており、どちらかと言えば上昇余地のほうが大きいと言えるだろう。不透明な環境下ではあるが、基本的なシナリオは、米国の経済指標を確認しながらドルの買い場を探すタイミングだと考えている。

――英ポンド/円が弱いが、今後の見通しは?

 Brexit(英国のEU離脱)の交渉期限が1年半後に迫っているのにもかかわらず、英国政権内部でも方針が固まっていないようで、交渉が難航する見通しが強まっている。このまま、交渉期限が迫るほどに、ハードBrexit(強行的なEU離脱)の可能性が高まり、ポンド相場は不安定かするだろう。

 英国が、離脱の条件と併せて離脱後の貿易条件などをセットにして交渉したいと考えているのに対し、EU側は離脱の条件と貿易条件は分けて交渉する考えだ。交渉に臨む前提条件すら食い違っていて、双方に歩み寄りがみられないため、今後の交渉が難航することは必至だ。

 また、離脱交渉が難航する中、英国経済が弱くなってきていることも、ポンドの懸念材料だ。インフレは強いままに、4-6月のGDPは減速している。Brexitの決定当時は、ポンド安が英国経済にはプラスに働くといわれていたが、ここにきてBrexitのマイナス面が出始めたようにも見える。すでにBOEはインフレ率の見通しを据え置いて経済成長率の見通しを引き下げている。このまま、離脱交渉が進展せず、利上げに対する不透明感が高まれば、ポンドは一段安もありえる。当面は、1ポンド=131円~143円程度を予想する。

――その他、注目している通貨ペアは?

 ユーロ/ドルの行方に注目している。8月のジャクソンホールでは、米FRBのイエレン議長もECBのドラギ総裁も、今後の金融政策に関するヒントを示さなかったが、ドルが全面的に下落した一方、ユーロは全面的に上昇しており、市場は両極端の反応を示した。FRBによる年内利上げの見送りと、ECBによる年内の緩和縮小宣言を睨んで、市場が先走っていると考えるべきだろう。

 節目の1ユーロ=1.20ドルを突破した事で上昇に弾みが付く可能性もあるが、いずれ米国経済の腰の強さが見直されて、ドルがどこかで持ち直す展開になってくると考えている。2014年以降の下げ幅の半値戻しに相当する1ユーロ=1.21ドル~22ドルがユーロの上値メドになるのではないだろうか。