■ISが金貨を鋳造していたという事実
 
 最近のいくつかのニュース記事によると、過激派組織と知られる「イスラム国」(以下、IS)が、国家樹立を象徴する金貨を独自で発行したことが確認されました。イラクを含む多くの国ではディナール(dinar)という通貨が使われていますが、各国が独自で発行しているため価値はそれぞれ異なっています。今回ISが発行したとみられるこの金貨は1ディナールで重さは4.25g、21カラットの金が使われています。
 
 ISが発行した金貨はイラク北部地域で使用が強制されていたことが確認されました。特にモスル地域はISが2014年から武力制圧した地域であり、現在20万人ほどの民間人が抑留されているとみられています。住民たちは石油取引での対価支払手段としてこの金貨を使用するよう強制されたようです。
 
 2016年10月に入ってイラク政府がモスル地域の奪還作戦に着手し当地域の西部の奪還に成功するなどISを追い込んでいる状況にありますが、そのような中でもISは1ディナールや5ディナール、10ディナールという形で少しずつ流通させてきたと思われます。
 
■地政学的なリスクの最たるもの
 
 彼らが独自の金貨を発行するようになった背景のひとつは米国の金融システムに対する否定であり、代表的な国際通貨であるドルに対しては「無価値の紙切れ」だと批判してきました。
 
 2014年に彼らが上記のような金貨を含む銀貨、銅貨などを発行すると宣言していた当初では、彼らが十分な金を持っているのか、流通させる力があるのかについて疑われていました。しかし、実体として確認された金貨はモスル地域の貴金属商が所有していたものですが、鋳造の質は低くはないようです。
 
 米国中心の貨幣経済からの脱却を主張すること以外にも、ISの金貨発行は彼らがイラクやシリアなどの広範囲の地域において堅固な勢力を築き上げたことをアピールするためであるかも知れません。
 
 彼らが通貨として実物資産である金の価値を本当に高く評価しているかどうかは別として、ISという組織の存在が国際社会における不安要素の一つになってきている以上、安全資産である金の今後の価値を変動させる要因になることは確かなのではないでしょうか。地政学的リスクとしてとりあげられる組織が、金貨を鋳造しているという事実は、まさに地政学的なリスクの最たるものなのかもしれません。(イメージ写真提供:123RF)