特区政府は7月25日、広深港高速鉄路(広州—香港間高速鉄道)の香港側と中国本土側の出入境審査を1カ所で行う「一地両検」案を発表した。西九龍に建設中の駅に双方の税関・出入境管理所を設置する構想だが、非親政府派は香港基本法に違反するとして全力で阻止する構えを見せている。(編集部・江藤和輝)
 
 西九龍駅は地下4フロアで、うち地下2階が入境フロア、地下3階が出境フロア。両フロアに香港側と本土側の税関・出入境管理所エリアが設置され、各自の法律に基づき出入境審査、税関手続き、検疫を行う。地下4階のプラットホームと高速鉄道の車両を含む本土側エリアでは全面的に本土の法律を施行する。西九龍駅の所有権は香港側に属し、特区政府は賃貸形式で同エリアを本土側の管轄とする。本土側の職員は出入境、通関、検疫だけを処理するが、指名手配犯の出現など他の権力が必要な場合は同職員が拘留して関連部門に引き渡して処理する。本土側職員は税関・出入境管理所のエリアを離れず退勤後は本土に戻るため、駅を離れて香港で本土の法律を執行することはあり得ないという。
 
 特区政府は「一地両検」の実現に向け(1)香港と本土が「一地両検」の協力措置で合意(2)全国人民代表大会(全人代、国会に相当)常務委員会に協力措置の批准・確認と「一地両検」実施の授権を求める(3)現地立法――の3段階で推進する。
 
 袁国強・司法長官は記者会見で「政府は西九龍駅で一地両検を実施することが最も経済効率を発揮するとみる。一地両検を実施しなければ高速鉄道建設のもともとの目的に沿わない」と述べ、非親政府派に対し運輸や法律の問題を過度に政治化しないよう求めた。
 
 記者は「市民が6・4Tシャツを着て高速鉄道に乗る、または本土側の税関・出入境管理所エリアで抗議活動を行った場合、本土の公安に逮捕され本土で裁判を受けるのか」と質問。袁長官は「一地両検に限らず旅客が他の管轄区に入ったら現地の法律を守らなければならない」と回答した。
 
 また高速鉄道香港区間の線路は香港側の管轄だが、車両は本土側の管轄となる。乗客が車両内で法律に違反し、車両を離れて線路上に入った場合の処理については、保安局の李家超・局長が「不法入境者として扱う」と答えた。このほか妊婦が本土側エリアや車両内で出産したえい児は香港生まれにはならないことなどが説明された。
 
 民主党の〓謹申氏と林卓廷氏、公民党の陳淑荘氏、工党の張超雄氏、香港本土の毛孟静氏、自決派の朱凱廸氏らは25日に会見し、「一地両検関注組」を組織して立法会での「一地両検」の法案通過を全力で阻止すると表明。〓氏は「基本法に本土の執法人員は香港で執法できないと明記されている。立法会は基本法に違反する法律制定はできない」と述べ、今後も基本法を修正せずに香港のある地区を中央に賃貸して本土の法律を施行する可能性があるとの懸念を示した。(〓はさんずいに余)
 
 非親政府派は西九龍駅の一部が本土側の管轄となることを「割譲」と形容。だが袁長官は基本法7条に「香港特区域内の土地と自然資源は国家が所有し、特区が管理、使用、開発、賃貸する」とあることを挙げ、いわゆる「割譲」の要素は存在しないと説明。「一地両検」実施に当たっては基本法20条の「香港特区は全人代、全人代常務委、中央政府が授ける他の権力を享受できる」に基づき全人代常務委に授権を求めるという。
 
 基本法起草委員を務めた民主党の李柱銘氏は「20条の原意は権限を拡大するためのもので、これでは逆に権限を縮小するために運用するようなもの」として「一地両検」は23条よりも深刻と批判。だが基本法委員を務める香港大学の陳弘毅・教授は「一地両検を実施するかどうかは香港の高度な自治の範囲に属し、香港が自ら選択できる」と述べ、基本法違反との見方を否定した。
 
■来年の開通は実現するか
 
 李柱銘氏は27日、同じく基本法起草委員を務めた譚惠珠氏(全人代香港代表)と香港電台(RTHK)の番組で討論した。李氏は「一地両検」が前例となって「再びセントラル占拠行動が発生した際に特区政府は占拠地を本土に短期賃貸することで本土の法律に基づいて処理できる」と指摘。だが譚氏は「一地両検は長年の検討を経ており、特区政府が突然理由もなく本土に土地を賃貸することはなく、そのようなことは発生しない」と一蹴した。譚氏は「一地両検」案の法的基礎として基本法20条のほかに118条(特区政府は各種投資を奨励する経済・法律環境を提供)、119条(特区政府は各業界の発展を促進する適切な政策を制定)、中国憲法62条(全人代は特別行政区の設立とその制度を決定)を挙げた。
 
 林鄭月娥・行政長官は30日、商業電台の番組で「一地両検」案に初めて言及した。林鄭長官は「一地両検」に関して官僚はすでに法律と運営効率の角度から検討を重ねており、いたずらに誇張、政治化すべきではなく、本質に立ち返るよう呼び掛けた。林鄭長官は「一部の非親政府派が挙げている反対論の根拠は極端すぎるし、少々デマが含まれ、説得力がない」と指摘。「西九龍駅に近付けば公安当局に連行される」などとの話に対しては、高速鉄道は切符を実名で購入し、立ち入り制限エリアに入り、香港側の税関・出入境管理所を経てから本土側の税関・出入境管理所に入るため、主導権は乗客にあり、知らず知らずに本土側エリアに連れて行かれることはないと説明し、「高速鉄道に乗るのが心配な市民は、飛行機、自動車、徒歩など他の方法で本土との間を往来する選択もある」と述べた。
 
 一方、「一地両検」案は基本法に違反するとして裁判所に取り消し令を要求する訴訟が28日までに4件申請された。申請者は政府に対し度々訴訟を起こしている郭卓堅氏や社会民主連線(社民連)の曽健成氏ら。だが香港大学の張逹明・講師ら法律専門家は、政府が敗訴すれば最終的に全人代常務委の基本法解釈を招くことになるため、訴訟による挑戦は成功しないとみる。袁長官は記者会見で「市民の訴訟権利を尊重し法的ルートを通じて処理する」として、全人代常務委に解釈を求める計画はないと述べていた。
 
 目標とする来年第3四半期に高速鉄道を開通させるには2017/18年度立法会会期に現地立法を完了しなければならず来年7月がデッドラインとなる。ただし8月に追加会議を行えば夏の休会前に完了し、10月1日までに開通させることは可能だ。通常は条例の可決まで約半年を要するため、草案は今年末か来年初めに立法会に提出しなければならない。立法会で過半数の支持があれば可決できるため非親政府派による阻止は難しいとみられるが、議事妨害による可決先送り、さらには大規模デモによって頓挫するなどの事態も考えられる。(イメージ写真提供:123RF)