GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がESG(環境・社会・ガバナンス)指数の選定結果を7月3日に公表し、1兆円規模での投資を開始したことで、日本においてもESG投資、または、「ユニバーサル・オーナー(広範なポートフォリオを持つ大規模な投資家)」の考え方への関心が一段と高まっている。NNインベストメント・パートナーズとコムジェスト・アセットマネジメント、そして、NPO法人の日本サステナブル投資フォーラム(JSIF)が7月14日に東京・紀尾井町で開催したセミナーでは、「欧州と日本では、ESG投資の広がりと深度に差がある。GPIFの動きは日本でのESG投資を促すだろうが、欧米並みのレベルに進むには日本で一段と議論が深まることが必要」(高崎経済大学教授/JSIF共同代表理事の水口剛氏)と指摘され、欧米のESG投資への取り組みについて真剣に学ぶ姿勢が大事だとされた。

 水口氏は、15年4月から1年間、ロンドンのESG調査機関であるEIRISに滞在した経験も踏まえ、「欧州ではレスポンシブル・インベストメント(責任投資)として定着しているESGが、日本では責任投資とは言わずに、ESG投資といわれて浸透が図られている。責任投資といわずに、ESGという分かりにくい言葉に置き換えているところに、日本で浸透しない原因の一端があるのではないか」と問題提起した。

 そして、オランダ最大の公務員年金であるABPの会長Corien Wortmann-Kool氏が「我々が受益者に対する長期的な責任を果たす能力は、安定的で回復力のある資本市場と経済、そして、健全でサステナブルな社会と環境のシステムに依存している」と言っていることを紹介。ABPは責任投資方針で「我々は3510億ユーロの資産を、単に良いリターンを上げるためだけに使いたくない。サステナブルで社会的責任のある方法でそのリターンを生み出したいのだ」と決意を述べている。水口氏は、「大きな年金は、環境や社会の安定が運用の前提になっていると認識している」と語った。

 このようなESG投資への姿勢は、欧州域内で大きな広がりがある。フランス政府は2015年に「グリーン成長に向けたエネルギー転換法」を施行し、企業の年次報告書において気候変動の影響に関連する財務リスクと、それを削減するために採用している方法の開示を義務付け。今年7月には、2040年までに国内のガソリン車とディーゼル車の販売を禁止する方針を公表した。

 また、「Carbon Footprint」(投資先企業の温室効果ガス排出量×持ち株比率)を毎年公表するMontreal Carbon Pledgeに120機関(資産総額10兆ドル超)が賛同。あるいは、ノルウェー政府年金基金などは、石炭産業や石炭発電を投資先から除外するダイベストメントを表明。さらに、エクソン・モービルに英国国教会とNY州公務員年金が共同で株主提案し、「2℃目標(産業革命後の気温上昇2℃以内に抑えるという国際合意)」が同社のビジネスに与える影響と戦略について開示を求めたことに対し、アムンディ、アクサ・インベストメント、BNPパリバ、CalPERSなどが支持。経営陣の反対にもかかわらず62.3%の賛成を集めるなど、個別企業への議決権行使も積極的に実施されている。このような動きも影響し、ダウ石炭指数は、過去5年間で10分の1になった。

 このようなESG投資に関する取り組みは、温室効果ガス問題以外にも、強制労働、サプライチェーンの人権問題、漁業、森林破壊、工場適畜産(Factory Farming)のリスクなど、様々な分野に及んでいる。水口氏は、このような欧州の機関投資家の動きについて「持続可能な社会の実現をめざし、資本主義の概念そのものが拡張している。従来の財務資本という考え方から、社会・関係資本、そして、自然資本にまで広がって、投資家として社会や自然資本の代弁者として投資先にエンゲージメント(対話、介入)していくという考え方だ。ESGや責任投資とは、自然資本や社会・関係資本を不断に守り続けるシステムを構成する重要な要素になっている」と解説した。

■ESGは投資のメインストリームに

 欧州の中でもESG先進国と目されるオランダを代表する運用会社であるNNインベストメント・パートナーズ(運用資産総額:約23兆円)のビジネス戦略部長の上田敏氏は、「2000年からESGに特化した運用商品を提供し始め、現在ではグローバル株式、インパクト投資、ESG社債などESG関連投資額は合計で8000億円を超えている」と語った。すでにオランダでは、年金など機関投資家への運用提案において「ESGはマスト。Carbon Footprintの開示も当たり前に行われている」という。結果として、同社の主力であるグローバル株式ポートフォリオの投資先企業の温室効果ガス排出原単位は、MSCI World構成銘柄の約3分の1に抑えられている。

 上田氏は、「世界の上位20の年金基金のうち、最大のGPIFを含む12基金がUN PRI(国連責任投資原則)に署名するなど、サステナブル投資はすでに世界の投資のメインストリームになっている。NNインベストメントは、ESGファンドのみならず、全ての投資においてESGは銘柄選定に不可欠な情報と考えている。ESG分析は、ESG調査部など独立した部門が行うのではなく、メインストリームの株式アナリストによって行われていることにも、その徹底ぶりが分かっていただけると思う。今後、一段と広がっていくESG投資の分野で、多くの投資家に貢献していきたい」と語った。

 フランスの独立系運用会社であるコムジェスト・アセットマネジメント代表取締役の高橋庸介氏は、「フランスでは2001年ごろから、新経済法(NRE)によって、持続性の観点から環境や社会などに向き合う方針や実績など非財務情報の開示が義務付けられた。また、環境グルネル法など、ESGに配慮することは、法的にマストになっている」と国情を紹介。「フランスは農業国であり、かつ、フランス革命の伝統で労働者に権利意識が強いという国民性が背景にあるのだろう」と語った。

 そのフランスで初の独立系運用会社として約3兆円の資産を運用しているコムジェスト社は、「投資哲学であるクオリティ・グロースが、持続的な価値創造に着目し長期的に高リターンをめざすにあたって、リスク・投資機会の両観点からESG要素を考慮している。運用資産の全てがESG投資といえる」という。この結果、たとえば、コムジェスト・グローバル株式戦略のポートフォリオの炭素強度(構成銘柄によるCO2排出量)は、MSCI ESGリサーチ社の調査ではMSCI ACワールド・インデックス対比で78%抑制されている。高橋氏は「ESGは長期的にリターンを最大化させる投資になりうる。日本での普及に努めたい」と語っていた。(写真は、左がコムジェスト・アセットマネジメント代表取締役の高橋庸介氏、右がNNインベストメント・パートナーズのビジネス戦略部長の上田敏氏)(情報提供:モーニングスター社)