中国人民銀行が人民元の対米ドル基準レートの算出方法を変更したもようである。大和総研の経済調査部主席研究員、齋藤尚登氏は6月27日、『今月の視点-人民元算出方法変更と香港市場の混乱』と題したレポート(全1ページ)を発表し、中国政府当局の今月の動向について考察している。レポートの要旨は以下の通り。
 
 2015年8月11日以降、人民元の対米ドル基準レートは、複数のマーケットメイカーが、前日終値を参考に、外貨需給と国際主要通貨(通貨バスケット)の為替レートの変化を総合的に考慮した上で、レートを提示し、中国人民銀行がそれをベースに算出して発表されるようになった。それ以前は、基準レートは前日終値と関係なく、当局が恣意的に決定していると批判されていたが、両者にある程度の連続性を持たせたのである。当日の人民元の対米ドルレートはこの基準レートに対して±2%の変動が認められている。
 
 中国人民銀行がこの基準レートの算出方法を変更したもようである。
 
5月下旬の報道では、基準レートの算出に「逆周期因子」(反循環的要素)が加味されるとされた。6月22日付日本経済新聞は、①通貨バスケットに対する変動幅は、実際のマーケットの動きよりも小さく、さらに元安の場合により小さく基準レートに反映させる、②前日の人民元レートが元安の場合は、ある程度元高方向に、同様に元高の場合は元安方向になるように作用する「逆周期因子」を基準レートの決定の際に加味する、と報道した。為替変動を小さくするのが目的であるが、①では、元安方向への値動きがより抑制される仕組みとなっている。政府当局の意向が人民元の安定化、特に大幅な元安を阻止することにあるのは明らかであろう。これには、元安のさらなる進展が、米中貿易不均衡問題に油を注ぎ、外交・政治問題となるのを回避し、今秋に開催が予定されている第19回党大会を安定した状態で迎えたいとの思惑があるのではないか。
 
 5月下旬に政府当局の「元安回避」の意向が報道されるや、香港のオフショア人民元金利は一時的に急騰し、6月1日の香港銀行間取引金利翌日物は42.8%に上昇した。投資家や投機筋は米利上げにより元安が進展すると予想し、元売りポジションを膨らませていたが、元安期待は一気に萎んだばかりか元高に振れ、売りポジションは手仕舞い(元を買戻し)を余儀なくされた。元の需要が短期的に高まる中、資金の出し手である中国の大手行が十分な供給を行わなかったことから、人民元金利が急騰したのである。
 
 このところ、政府当局が政策を実施する際に香港のオフショア人民元市場を利用したり、様々な思惑に同市場が敏感に反応するなどして、香港の人民元金利が急騰し、市場が混乱するケースが増えている。市場としての安定性は大きく損なわれている。
 
 さらに言えば、今回、基準レートの算出方法が変更されたとされるが、中国人民銀行から正式な発表やコメント等はなく、中国国内では外電の引用が報道されるという状況が続いている。説明責任の重要性は、2015年8月11日の人民元切り下げの際に、当初、きちんとした説明がなかったことが様々な思惑を生み、「人民元ショック」などの大混乱を招いたことで身に染みて分かっているはずなのにである。
 
 中国が避けるべきは大幅な元安であり、本土市場も元高に振れたことは、当局の思惑通りなのであろう。今回の算出方法の変更は、当然、人民元レート決定の市場化や人民元の国際化とは逆行するのだが、何よりも今は「安定」が最優先されるということなのであろう。(情報提供:大和総研)(イメージ写真提供:123RF)