6月6日に社会保障審議会企業年金部会 確定拠出年金の運用に関する専門委員会が報告書を提出し、改正確定拠出年金法(DC法)の整備が一歩前進した。今年1月に施行された改正DC法によって、個人型DC(iDeCo)にすべての国民が原則加入可能となるなど、大きく動き始めたDC制度だが、一段の普及につなげるためには、より多くの人に関心を持ってもらい、より使いやすい制度にする必要がある。人事・財務のコンサルティングをグローバルで提供しているタワーズワトソンのベネフィット部門ディレクター浦田春河氏(写真)に、今回の報告書の意味、また、今後の普及拡大のために何が必要なのかについて聞いた。

――DCの運用商品提供数の上限について報告書では「35本」としたが、この結論への評価は?

 本来は、投資教育の効果をいきわたらせるために、なるべく商品本数は少なくして、加入者が一つひとつの違いを峻別した上で運用先を選定できるようにしようという趣旨の法律だった。しかし、その趣旨をないがしろにする大きな数字を法律の下部規定である政令で定めるといういびつな構造になる。こういうことが許されることが不思議だ。

 35本という数値は、金融機関からの要望を丸呑みした結果だ。DCはビジネスとして収益があがらない事業であるため、あまり厳しい制限を設けてしまうと、業者が事業を継続できなくなる。プレーヤーが減ってしまってはDC制度の存続が危うくなるといった側面も意識されたのではないかと推察している。

 改正法の趣旨を尊重するのであれば、提供本数の上限は10-15本程度であるべきだと考えていた。当社がまとめた「運用商品数と資産配分に関する調査」においては、提供商品数が10本以下になると元本確保型商品のウエイトが下がり始め、7本以下で相当小さくなるという結果だった。

 企業型DCの場合、会社の制度だからということで、本人が知らないうちにDCに加入しているというケースが多い。こういう人たちを前提に考えると、商品選択の負担を小さくするために、なるべく商品数は少ない方が良いと考えられる。たとえ35本が法令上の上限本数になったとしても、なるべく少ない本数にするというのが、事業主としての見識だろう。

 一方、個人型(iDeCo)には上限規定の適用がなくてもよかった。たとえば、イギリスにおいては、日本の企業型に相当する制度で商品数を15本以下に抑えているものが多いが、個人型に相当する制度では51本~100本が多いし、100本以上用意しているプランもある。個人型は、運用商品を見ながら個人が自由にプランを選択できる。資産運用に慣れている人は商品数が多いプランを選ぶだろうし、投資に慣れていない人は少ない方を選ぶだろう。どのようなプランが良いのかは個人の選択の自由である。今回の議論ではこうした点にあまり時間を割かず、企業型と個人型を一律に規制してしまった。

――「指定運用方法(デフォルト商品)」の基準が示され、企業型DCでは今後、それぞれの企業において指定運用方法を決めていくことになるが、その選定にあたってのポイントは?

 まずは、各企業において、どういったお金がデフォルト商品に入っているのかを、よく見極めた方が良い。そして、DC制度に無関心な人たちを救う手段のひとつとして指定運用方法を活用するという発想が必要だ。

 たとえば、専門委員会で事例紹介があった一部の大企業のように、投資教育に手間暇をかける余裕があって、十分な情報が提供され、それをもとに加入者が運用先指定をできるような会社であれば、デフォルト商品は元本確保型商品が良いと思う。デフォルト商品を加入者が運用選択をするまでの間の一時的な資金の置き場として位置付けられるからだ。

 ところが、多くの企業では、それほど頻繁に投資教育は実施できないし、その効果を加入者全般にいきわたらせることは難しい。その中で、デフォルトを元本確保型商品にしていると、物価変動等の影響を考慮すれば、DC資産が実質的に元本割れする加入者も出てくる。こうした企業に意識してほしいのは、今回の報告書にあるように、「デフォルト商品に入ったお金は、加入者が運用指図したものとみなされる」ことだ。デフォルト商品で損失が出たとしても企業側が運用の責任を求められることはない。米国にある免責規定と同様の効能が今回確認されたのだ。事業主は、短期的な運用損失を懸念することなく、勇気をもって、ターゲットイヤーファンドなどリスク性商品をデフォルト商品に位置付けるべきではないだろうか。そして、そうした方が長期的には、運用先を決められない加入者を救うことになる。

 実際、DC先進国の英米やオーストラリアなどの制度では、リスク性商品をデフォルト商品として設定していることに学んだ方が良いと思う。

――DC制度の普及に必要なことは?

 制度の普及に必要なことは、抜本的に考えるのであれば、「拠出限度額の上限の拡大」と、「60歳引き出し要件の緩和」だと思う。

 そもそも拠出限度額が小さいために、DCマーケットにお金が入らず、資産残高が小さいままで、金融機関にとって事業としての魅力が小さい。拠出限度額をもっと大きくすれば、金融機関も制度の普及に本腰を入れるだろうし、加入者も老後の生活資金を蓄える制度として強い関心を持つだろう。限度額の枠を広げるためには、DCの拠出限度額イコール税控除の限度額とする発想を変える必要がある。掛金を税控除の枠で考える限り、掛金水準の決定は事実上、税務マターになり、なかなか動きが取れない。

 企業型では、DB(確定給付企業年金)をDCに全面移換したくても、拠出限度額の関係でDBを一部残さざるを得ないケースが多い。DCに税引き後の拠出を認めれば、退職給付債務(PBO)をなくしたい企業、すなわちDBをなくしたい企業は、たとえDCへの掛金が全額損金算入できなくても、DCへの全面移換を考えるところもあるだろう。

 また、個人型(iDeCo)においても、税控除の対象額を超えて、全国民統一の限度額まで掛金を積めるようにすればわかりやすくなる。たとえば、iDeCoに加入するためには、いくつもの書類提出が必要で、この手続きの煩雑さが普及のネックのひとつになっている。手続きの煩雑さは資格要件によって拠出限度額が異なり、自身がどの資格要件なのかを証明する必要があるためだ。入口のところで躊躇を生む形になっている。そうではなく、まずは簡単にいったん制度に加入してもらい、税控除の手続きは年末の税申告時に各資格要件に応じて処理してもらうやり方に替えた方が制度の普及はのぞめるのではないか。

 また、インセンティブのつけ方も考えたほうがよい。実際にiDeCoのメリットとして掛金の税控除が強調されるが、若い人は自分がいくら税金を払っているのかに、そもそも関心が薄く、税控除のメリットは実感しにくい。

 マレーシアやトルコで実施している「政府マッチング」はヒントになる。自分がDCに掛金を出せば、政府がそれに対して上乗せ拠出をしてくれるというやり方だ。例えば個人がDCに1万円を拠出すれば、それに対し2,000円の政府マッチングが支払われる。2万円拠出した者には4,000円支払われる、といった仕組みだ。税控除であろうと、政府マッチングであろうと、もともとの財源は同じでどう使うかだけの違いだ。政府マッチングの方が、目に見えやすく、インセンティブとしてはパワフルだと思う。

 政府マッチング方式だと、所得のない者にもインセンティブがつけられる。この点でも、税控除方式より優れている。また、インセンティブをつけたいターゲットを絞って付与する政策も可能だ。たとえば、40代、50代は、老後資金の準備を自ら行うので、インセンティブは必要ないと考えれば、20代、30代だけに「政府マッチング」を付与するようにすれば、より少ない財源で実施できる。

 企業型では60歳引き出し規制への抵抗は強い。企業型DCは退職給付なのだから、特に中小企業では退職時に退職金として払ってあげたいという経営者は多く、それができないから中小企業への普及を妨げている。企業が拠出したお金は退職時に支払うことが可能な制度にすれば、中小企業への普及は一段と進むだろう。米国401(k)プランでは、サブアカウントを設けて、事業主拠出と個人拠出を分けて管理するシステムがあり、これを日本でも導入すればよい。

 日本のDCは発展途上だ。今回の改正DC法令で終わりではなく、まだまだやるべき改正はある。DC普及のための議論を止めてはならないと思う。

――現在の制度の枠組みの中で、運営管理機関等が制度普及のためにできることは?

 現在の制度の中でも、DCの普及を促す取り組みはできる。たとえば、中小企業に認められた「逆マッチング」(従業員が個人で加入しているiDeCoに企業が事業主掛金を拠出する制度、拠出金額は損金算入できる)は、外資系にとっては本国では当たり前の仕組みだけに受け入れられやすい仕組みだ。

 また、iDeCoは、企業年金制度でカバーされていない非正規従業員の間でニーズが高い。今般のキャンペーンで、自分が加入できることを(もともと入れたのに)初めて知ったという人は多い。基本的にすべての勤労者が加入できるようになったのだから、この機会に非正規従業員への普及についてもさらなる取り組みがあっても良いと思う。(情報提供:モーニングスター社)