米ムーディーズは5月24日、中国と香港の格付けをともに引き下げた。第1四半期に予想を超える成長を見せた香港経済への自信などから特区政府はムーディーズの観点に反発しているが、年内の成長はすでにピークを迎え、残り期間は低成長にとどまるとの見方もある。そんな中で最も懸念されているのは不動産バブルの崩壊といえる。(編集部・江藤和輝)

 ムーディーズは香港の格付けを「Aa1」から「Aa2」に引き下げ、一方で見通しは「ネガティブ」から「安定」に引き上げた。その根拠として(1)香港は中国本土と密接につながっているため、本土の信用状況は香港に影響する、(2)「一帯一路」や証券市場の相互乗り入れなど、香港が参画する本土のプロジェクトはますます増えている、(3)本土からの貿易・旅行者が香港に占める割合はどんどん高まっている、(4)中国が香港の政治機構と政策制定時に関与した証拠がさらに多く見つかれば格付けをさらに引き下げる――を挙げた。

 これに対し特区政府の陳茂波・財政長官は、本土の融資は質が高いことや「一帯一路」への参加は香港経済全体にとって利益になることなどを挙げ「ムーディーズの観点は非常に同意できない」との声明を発表。格付け引き下げの根拠に再三反論したほか、世界経済が不安定な中でも香港経済は成長を維持し、第1四半期には過去6年で最高の伸びを示したと指摘した。

 特区政府が発表した第1四半期の実質域内総生産(GDP)伸び率は前年同期比で4・3%となり、前期(2016年第4四半期)の同3・2%(修正値)から拡大。伸び幅は11年第2四半期以降で最高となった。前期比伸び率は0・7%で、3期連続で拡大、平均伸び率は1・2%となっている。第1四半期の統計は予想を上回ったものの、世界経済の先行きには多くの不確定要素が存在することから、通年伸び率予測は2月の財政予算案とともに発表した2~3%に据え置いた。大部分の民間機関アナリストの最新予測は2~2・6%、平均2・1%となっている。

 日本経済新聞社と金融統計機関マーキットが5月5日に発表した4月の香港の購買担当者指数(PMI)は51・1で、3月の49・9から1・2ポイント上昇した。17年に入って初めて景況判断の目安となる50を上回り、過去38カ月(3年余り)で最高となった。香港の輸出が2カ月連続で大幅な伸びを見せるなどで香港企業の経営環境の改善が反映された。

 特区政府統計処が発表した4月の輸出総額は前年同月比7・1%増の3054億ドル。1~4月の輸出総額は前年同期比9・4%増だった。香港港口発展局が発表した4月のコンテナ取扱量(見込み)は前年同月比10%増の173万9000TEU(20フィート標準コンテナ換算)。3月の同17・1%増から伸び幅は縮小したが、修正値では3カ月連続で伸びを維持した。1~4月の累計では前年同期比12・7%増の665万8000TEUとなり、世界の主要コンテナ港の中で香港は引き続き5位を維持した。

 スタンダード・チャータード銀行は5月15日、香港経済の見通しに関するリポートを発表し、今年のGDP伸び率予測を上方修正した。ただし政府発表で第1四半期のGDP伸び率が市場の予測を上回る4・3%に達したのは前年同期の基数が低かったためであり、すでに年内のピークに達したと指摘。今後の四半期ごとの伸び率は2~3%にとどまるとして、通年伸び率予測は先に発表した2・2%から3%に修正した。リポートでは、経済がゆるやかに回復しているものの低い基数による効果は徐々に薄れ、地政学的リスクの不透明さ、世界の通貨政策の引き締め、中国本土の経済成長が鈍化し市場ムードに影響を与えることなどを挙げ、大きな伸びは第1四半期でピークを迎えたとみている。

■住宅価格は20%下落へ

 香港経済で目下、最も脅威とみられているのは不動産市場の過熱である。特区政府差餉物業估価署が発表した4月の住宅価格指数は327・4(速報値)で、3月に比べ2・1%上昇。13カ月連続の上昇となり、過去最高を更新。前年同月比では19・8%上昇した。5月26日に発表された中古住宅価格の指標となる中原城市領先指数(CCL)は158・26で、16週連続の上昇。14週連続で過去最高を更新した。梁振英・行政長官が就任した12年7月に比べると約50%高い。

 香港金融管理局(HKMA)の陳徳霖・総裁は5月29日、立法会財経事務委員会の会議に出席し、「市民の収入と住宅価格には深刻な食い違いが出ており、現在の市況は20年前の光景に似ている」と指摘。現在の収入に対する住宅ローン負担比率は平均71・5%に達していることを挙げ、1997年の106・8%より低いものの、97年の金利が10%以上だったのに対し現在は約2%に過ぎず、今後の金利上昇で負担が拡大すると説明。住宅を購入する市民に対し、住宅価格と金利の2大リスクに注意するよう呼び掛けた。

 住宅市場の過熱に対応し特区政府は矢継ぎ早に抑制策を打ち出している。昨年11月に従価印紙税が一律15%に引き上げられたが、香港に住宅物件を所有していない永住者は免除されるため、一度の契約で複数物件を購入するという抜け道があった。このため政府は「1件の契約書で1戸の物件を購入した場合だけ15%の印紙税が免除される」との新規定を盛り込み、4月12日に発効された。

 HKMAは5月12日、金融市場の資金供給リスクを注視し、銀行がデベロッパーに提供する建築融資のリスク管理措置を発表。一般融資上限はこれまで地価コストの50%、建築コストの100%、全体的融資は物件完成後の予想価値の60%を超えてはならないとなっていたが、それぞれ40%、80%、50%に引き下げた。

 1週間後の19日、HKMAは米国の金利が正常化に向かう中、香港の銀行は利下げや現金還付を行うなど住宅ローン競争が激化していることを注視し、(1)複数の住宅ローンを申請する者の融資比率上限を10ポイント引き下げ、(2)香港域外を収入源とする者の債務返済負担比率の上限を10ポイント引き下げ、(3)銀行の新規住宅ローンのリスクウエイト下限を15%から25%に引き上げ——の3措置を講じた。これらを受け29日までに5行が住宅ローン金利の引き上げを発表した。

 シティバンクは5月22日に発表したリポートで、「新政策は住宅市場を冷却させる。新築物件の販売資源も充足しているため、住宅相場は天井を打って下落に向かう」と指摘。今年は住宅価格が15%下落するとの予測を据え置き、年末までにピークから累計20%下落すると警告した。果たして過熱状況をソフトランディングに導くことはできるだろうか。(イメージ写真提供:123RF)