市場の注目を集めていたフランス大統領選挙が、事前の予想どおりに親EUのマクロン氏が勝利したことで全般にリスクオンの機運が高まってきた。外為どっとコム総研の取締役調査部長兼上席研究員、神田卓也氏(写真)は「ドル/円は、長期トレンドがドル高/円安方向に転換しそうだ。北朝鮮情勢は気になるものの、米4月の雇用統計で確認された米景気の強さ、そして、欧州の政治リスクの後退によってドル高の流れがしっかりしてきそうだ」と見通している。当面の市場の見方は、以下の通り。

――当面のドル/円の見通しは?

 長めのスパンで見ると、月足チャートは今年1月から3月まで陰線が続いていたが、4月は下ヒゲの長い陽線となり、底入れを示唆する動きに転じている。200日移動平均線が上向きに転じたことに続いて、52週移動平均線も上昇してきたことで、チャート上ではドル高・円安の動きが強まることを示唆している。

 そのドル高の流れが確かなものであるかどうかを確認する上で、フランス大統領選挙の行方が注目されたが、市場が織り込んでいた通り、マクロン氏の勝利で決着した。第1回投票の結果では、チャート上で窓を開けて上伸する強いリスクオン(ドル高・円安)になったことと比べると、決選投票の結果に大きな反応はなかったが、リスクオンに動きやすくなったことは確かだ。

 3月までのドル下落は、(1)米国景気が腰折れする懸念、(2)欧州の政治リスク、(3)北朝鮮問題など地政学上のリスク――という3つの懸念材料があった。このうち、米国景気については4月の雇用統計で景気がしっかりしていることが確認され、フランス大統領選挙で親EUのマクロン氏が勝利したことによってユーロ危機への懸念が後退した。3つ目の北朝鮮リスクは、米トランプ大統領の行動も含めて予測不能だが、3つの懸念のうち2つが遠のいたことで、リスクオンの流れになりやすくなった。

 米国の景気見通しでは、一部のシンクタンクが第2四半期(4月-6月期)のGDP成長率は年率4%を超える強いものになるという見方も出ている。1-3月期の成長率が0.7%であったこととは様変わりする見通しだ。FRBは、1-3月の弱い経済統計について一時的なものとの見方を示していたが、第2四半期で4%成長という強い数値になれば、そのFRBの見方を裏付けるとともに、年内に2回の利上げに加え、膨らんだバランスシートの縮小をめざす動きも出てくる可能性がある。

 現在、FRBは保有する米国債の償還に応じて、償還額と同程度の国債買い入れを行うことでバランスシートを維持している。この再投資を停止することになれば、米国債の需給関係が変わり、米国の長期金利が一段と上昇する可能性がある。米国の次回FOMCは6月13日、14日に開催されるが、この会議の後でのイエレン議長の発言内容が注目される。利上げを実施した上で、バランスシートの縮小、正常化に動くことを示唆するような発言があれば、年後半は一段のドル高・円安に動くことが期待されるようになるだろう。

 ただし、北朝鮮情勢が一段と緊迫し、戦闘状況になれば一気にリスクオフに傾く可能性はある。客観的な兵力比較では戦闘が長引くようなことはないと考えられるが、イベントに接した当初は、大きく円高方向に動くことも考えられる。

 当面のドル/円のレンジは、1ドル=109.50円~115.50円程度とみる。110円割れの水準では大きなドル買い需要がある。また、今年3月の戻り高値115.50円が目標値になるだろう。

――フランスの大統領選挙を通過してユーロ/ドルの動きは?

 フランス大統領選挙でマクロン氏が勝ったことで、ユーロ崩壊という最悪のシナリオは避けられたものの、決選投票の結果に市場があまり反応しなかったのは、マイナス要因が払しょくされただけで、ユーロを積極的に評価する材料に薄いことがあげられる。むしろ、若いマクロン氏にはフランス国内で強固な政治的基盤がなく、その指導力も未知数であり、フランス政治が安泰とは言い難いということも、ユーロの頭を押さえそうだ。

 ただ、大きな政治的イベントを通過したことで、徐々に市場の関心は欧州中銀の金融政策に移っていくだろう。すでにユーロ圏のインフレ率は中銀が目標とする2%に近い水準にあり、伝統的にインフレファイターである欧州では、早期の金融引き締めを主張する理事もいる。これまでの発言内容から、ドラギECB総裁は金融緩和縮小への転換を急がないと考えられるが、当面は金融緩和の縮小を巡る綱引きが繰り広げられそうだ。

 当面はユーロの動きは鈍ってくると考えられる。予想されるレンジは、1ユーロ=1.075ドル~1.11ドル。フランス大統領選挙の1回目の結果を受けて窓を開けて上伸した時の窓を埋めることはないと考えるが、1.11ドルに乗せると上値が重くなるだろう。

――その他、注目の通貨ペアは?

 市場がリスクオンに傾くのであれば、もっとも世界景気に敏感に反応する豪ドル/円に注目したい。これまで豪ドルは、中国の経済指標が弱い、また、上海株も弱い、商品市況も低迷するなどの動きを横目に、積極的に取り上げられる通貨ではなかった。

 しかし、中国は、今秋に共産党大会を控え、景気を大きく落とすことは考えにくい。足元は、投資の抑制など不動産バブルを警戒する動きがみられるが、これは、中国の景気を長持ちさせる効果があると評価できる。中国経済が安定成長を続けることは、豪ドルにとってはプラス要因だ。

 また、現在、豪中銀の金融政策についての市場の見方は、90%が据え置きで年内は動かないとしているものの、残る10%程度では利上げ派と利下げ派に分かれている状況だ。すなわち、豪中銀の舵取りについて見通せていない。それだけに、今後、リスクオンの傾向が強まり、世界景気が拡大していけば、世界経済と連動性の強い豪経済ということが意識され、年後半には利上げの見通しがでてきてもおかしくない。

 当面の予想レンジは1豪ドル=82円~87円。年後半には90円を超えるような上昇も期待できると考える。もっとも、北朝鮮有事というような事態に至れば、リスクオフで買われる円と、売られやすい豪ドルの組み合わせである豪ドル/円は、大きく下落することが考えられるので注意が必要だ。