第5期行政長官選挙の立候補届け出期間が2月14日に始まった。候補者は選挙委員150人以上の推薦を集めて届け出ることとなっており、3月1日締め切り、26日に投開票が行われる。中央政府が1月16日、林鄭月娥(キャリー・ラム)政務長官と曽俊華(ジョン・ツァン)財政長官の辞任を批准し、2人は相次いで行政長官選への出馬を正式表明、政権公約(マニフェスト)発表などを行っている。2人に先駆け出馬表明した新民党の葉劉淑儀(レジーナ・イップ)主席や胡国興・元裁判官らを含め選挙戦は白熱化してきた。(編集部・江藤和輝)

 林鄭氏は2月3日、出馬に向けた決起集会を行い、次期政府の施政の重点として(1)土地開拓の拡大と住宅供給加速、(2)多角的経済発展で金融、観光、物流などの経済支柱の強化とイノベーション・科学技術とクリエーティブ産業の振興、(3)教育制度の全面的見直し——を挙げた。

 13日には政権公約として教育、税務、住宅に関する政策を発表。教育に関する一般会計予算を年間50億ドル増やし、幼稚園教諭の給与体系確立、小中学校教師の編成改善。税務では中小企業の負担を軽減するため法人税を2段階制にし、利益のうち200万ドルまでの課税率は現行の16・5%から10%に引き下げる。住宅では分譲型公共住宅より上の位置付けで中流層が負担できる物件を設けるとともに、賃貸型公共住宅住民だけを対象にした分譲型公共住宅の供給も拡大する。

 全面的な政権公約は3月上旬に発表する見込みで、政治体制改革にも言及するという。ただし林鄭氏は9日に民主党と会談した際、政治体制改革について「今後5年間に条件、環境、社会ムードが整うかを考慮しなければ社会のさらなる分裂を招く」と慎重な姿勢を示したため、胡志偉・主席は「民主党は受け入れられない」と述べた。

 曽氏は6日に政権公約を発表。政治体制改革と基本法23条に基づく立法、経済の多角化、住宅問題、福祉や教育に触れている。政治体制改革では中央に香港各界の意見を反映し普通選挙化の早期実現を目指すと言及。23条については「さらに先送りする理由はない」として立法を推進し、記者会見では政治体制改革とともに2020年に立法を完了させると表明した。さらに公共住宅の建設を増やし市民の6割が公共住宅に住むことを目標に掲げ、教育では小中学校の統一試験廃止や中国史を中学の必修科目にすることを提唱した。

 だが、民主派は政治体制改革と23条を同時に推進するのは再び社会の亀裂をもたらすとして、曽氏の当初の姿勢とは異なると指摘。葉劉氏も23条を推進した経験から曽氏を楽観的だと批判した。また市民の6割が公共住宅に住めるのを目標とする点に対し、梁振英・行政長官は「われわれが長期的に開発してきた土地をすべて公共住宅建設に回すことになり、今後、民間開発のための公有地売却は行わないことになる」と指摘。これは民間物件価格や家賃の上昇をもたらし、本来、民間物件を購入したり賃貸できていた市民も公共住宅の入居待ちの列に加わることになるとして否定的な見方を示した。

 こうした中、社会民主連線の梁国雄・議員が8日に記者会見し、出馬の意向を示した。香港大学の戴耀廷・副教授らが7日からネット上で始めた「2017特首選挙民間全民投票」計画で「住民指名」による支持を集められたら立候補すると表明。梁氏は「民主派の選挙委員は現在の4人の主要候補に投票すべきではない」ことが出馬を決意した理由とし「選挙をかき乱すためではない」と強調した。

 前回の行政長官選に出馬した民主党の何俊仁氏は「梁氏が出馬するロジックが分からない」と指摘。07年に出馬した公民党の梁家傑氏も「民主派の分裂を招く」と非難した。主に民主派票の獲得を目指している胡氏は「梁氏の出馬は政治パフォーマンスの面が大きく、社会の亀裂をさらに広げるだけ」と批判した。

■「社会主義者ではない」

 民主派の選挙委員約320人で構成される「民主300+」は2月11日、会議を行い推薦戦略を討議した。会議には法曹界や教育界などの委員約80人が出席し、推薦について胡氏、曽氏、「住民指名」の3つの可能性を討議。医学界やエンジニアリング界などの一部委員は胡氏の政権公約が民主派に最も近いとして胡氏への支持に傾いている。曽氏に対しては基本法23条に関する立場に懸念を持つ委員が多いほか、梁国雄氏の出馬にはおおむね否定的だった。

 『信報』は先に香港中文大学伝播及民意調査中心に委託して行政長官候補に関する3回目の世論調査を行った(1月18~24日、対象1036人)。支持率トップは曽氏で、前回(昨年12月半ば)の32・6%から33・5%に上昇。2位は林鄭氏で、23・9%から30・9%に急上昇。ただし現実的に誰が当選するかとの予測では63・5%が林鄭氏、17・4%が曽氏だった。また2人に対する支持を政治傾向別に見ると、本土派の79・1%と民主派の72・8%が曽氏、親政府派は78・8%が林鄭氏と顕著に分かれ、中間派は48・5%が林鄭氏、45・3%が曽氏、無党派は43・9%が林鄭氏、30・3%が曽氏となっている。

 親政府派消息筋によると、全国人民代表大会(全人代、国会に相当)の張徳江・委員長、国務院香港マカオ弁公室の王光亜・主任、中央統一戦線部の孫春蘭・部長らが2月5〜6日に深セン市に赴き香港の政財界関係者と会談したことが明らかになった。張委員長は林鄭氏を中央が行政長官に求める4条件に最も合っていると評価し、「林鄭氏への支持は中央政治局の一致した決定」と述べた。ただし欽定は否定し、選挙に対する中央の立場を表明しているに過ぎないと強調。親政府派に対し曽氏の出馬阻止も要求しなかったという。

 『明報』は主要候補4人に対する選挙委員の支持表明や意向などを基に獲得推薦票を割り出した(2月13日時点)。林鄭氏は漁農界、郷議局、新界の区議会、全人代代表、全国政協委員、香港中華総商会、民主建港協進連盟、香港経済民生連盟などの約395票。胡氏は医学界、エンジニアリング界、建築・測量・都市計画・緑地設計界などの約50票。曽氏は医学界、会計界、高等教育界、自由党、金融サービス界などの約25票。葉劉氏は新民党などの約20票。林鄭氏は商業電台の番組で「最終的に推薦票が600票を超えれば広範な支持を得たことが証明される」と述べている。

 だが林鄭氏は1月22日、メディアに対し自身が「多数の推薦票を得ても得票が少なく落選する可能性がある」と認めた。財界からは林鄭氏に対し「低所得層への支援を偏重」「社会主義者」との批評があるため、推薦しても無記名の投票では自身に入れない財界人が多いと懸念。このため林鄭氏はセミナーでの講演や記者会見などで再三にわたり「私は社会主義者ではない」と強調し、「資本主義は香港に非常に合っている」と述べるなど財界の懸念払拭に努めている。選挙の結果は最後まで読めないだろう。(執筆者:香港ポスト 編集部・江藤和輝)(イメージ写真提供:123RF)