次期行政長官を選出する選挙委員会の各界グループ別一般選挙が昨年12月11日に行われた。その直前に梁振英・行政長官は次期行政長官選には立候補しないと表明。続投断念との突然の発表は衝撃的に受け止められた。行政長官選には15日までに2人が出馬表明と政権公約(マニフェスト)発表を行ったほか、潜在候補者も動きを見せており、3月に向けて行政長官選が本格化してきた。(編集部・江藤和輝)

 選挙委選では約10万7000人が投票し、投票率は約46%。投票率は前回(2011年)の27・6%から大きく拡大し過去最高となった。無投票当選を除く25グループ733議席に1239人が立候補。選挙委員はもともと1200人だが、立法会議員の資格喪失や身分の重複で今期は実質的に1194議席となる。

 民主派の調整による候補者名簿「民主300+」は14グループで352人が出馬し298人が当選。民主派とその他を合わせた非親政府派は前期の約205議席から325~343議席に拡大。教育界、衛生サービス業界、高等教育界、情報技術(IT)業界、法曹界、社会福祉界ですべての議席を獲得するなど、特に専門サービス分野を寡占した。一方、親政府派は851~870議席を獲得。前回の行政長官選での唐英年氏の支持者は約250人、梁長官の支持者は約171人が当選した。

 民主派は行政長官選で独自候補を擁立しないが、梁長官の続投反対や政治体制改革やり直しを原則に300議席超を目標としていた。だが全国香港マカオ研究会の劉兆佳・副会長は「行政長官候補が当選するには601票以上を要する。非親政府派はすべての票を縛り付けた上に他の親政府派と協力せねばならない」として民主派の影響力は限定的とみる。香港中文大学の馬嶽・副教授は「民主派は梁長官の続投阻止という目的を失った後、行政長官選の戦略について意見をまとめなくてはならない」と述べた。

 梁長官は12月9日に記者会見し、行政長官選には立候補しないと発表した。理由として「今後一定の期間は家庭の面倒をみなければならない。行政長官選に出馬すれば今後数カ月、家族は耐えられないストレスを受ける」と説明。この決定はすでに中央に報告し、中央は理解を示したという。「選挙に出馬する必要がないため、今後6カ月は行政長官としての残り任期の仕事に集中できる」として、今期政府の最後となる施政報告(施政方針演説)では自身が5年前のマニフェストに掲げていた残りの主要課題として強制積立年金(MPF)オフセッティング、リタイア後の保障、法定労働時間の問題をできる限り解決すると述べた。中央に再出馬を認められなかったため家庭問題を理由にしたのかとの問いに対しては「絶対にそんなことはない」と否定した。

 これを受け林鄭月娥・政務長官は12月10日、行政長官選への出馬を検討していることを明らかにした。林鄭長官は記者会見で梁長官が非常に努力してきたと言及し、「社会は彼に対してあまり公平ではない」として批判の多くは不公平だと指摘。梁長官が続投を目指さないことは「非常に大きな変化であり、自身の去就をあらためて検討しなくてはならなくなった」と述べた。ただし「現在のところ何も決定しておらず、これまで行政長官選に出馬する準備は全くしていなかった」と明言。来年の定年を機に引退を望んでいたものの、現在の状況を受けあらためて検討することを明らかにした。「この問題は私個人の名声のためでなく、香港全体の福祉のために検討することである」と述べ、検討要素として(1)自身の出馬または当選して行政長官になることは「1国2制度」「港人治港」、高度の自治が引き続き実現するのに有利か (2)梁長官の「安定の中で変化を求める」という施政理念に沿って、今期政府が打ち出してきた政策を継続させられるか (3)家族の支持と理解が得られるか――の3つを挙げた。

■世論調査トップは曽長官

 曽俊華(ジョン・ツァン)財政長官は12月12日、梁長官に辞表を出し、梁長官は中央政府に報告した。曽長官は記者会見で「行政長官選への出馬は厳粛な問題であり、今後一定の時間に責任ある決定を下す」と述べたほか、「財政長官を9年余りにわたって務めたことは34年間の公務員生涯で最も長く忘れ難いこと」と指摘した。辞任が中央政府に批准された後に行政長官選への出馬を表明するという。

 10月に行政長官選への出馬を表明した元裁判官の胡国興氏は12月14日、マニフェストを発表した。胡氏は第一の仕事として政治体制改革やり直しを強調。選挙委員会(指名委員会)選挙の有権者を現在の25万人から100万人に拡大、さらに15年で段階的に300万人に増やすことを提唱。全国人民代表大会(全人代、国会に相当)常務委員会の決定撤回は求めないという。香港基本法23条の立法は特区政府の責任だが、政治体制改革案が合意に達するまでは立法を急ぐべきではないと説明した。リタイア後の保障問題では、高齢者に資産審査なしで毎月2500ドル支給するなどの政策を挙げた。

 新民党の葉劉淑儀(レジーナ・イップ)主席は12月15日、行政長官選への出馬表明とマニフェスト発表を行った。マニフェストは9分野に分けられ、第1に土地供給加速と公共住宅の建設拡大を挙げた。市街地に近接した緑地やカントリーパークの開発検討や、初めて住宅を購入する市民に優遇住宅ローン保険を提供。第2分野の公共財政の新概念では、現行の財政方針が過度に保守的だとして暗に曽長官を批判した。

 第4分野の機構改革では、土地供給と住宅政策を合わせた部門として「土地規画房屋局」や副政務長官、副財政長官の設置を提唱しており、梁長官が試みて頓挫した構想を復活させた。第9分野として政治体制改革やり直しを掲げ、全人代常務委の決定を基礎とする普通選挙に向けた改革の再始動と、保安局長時代からの懸案である基本法23条の立法作業の再推進を盛り込んだ。

 12月19日付『信報』は香港中文大学伝播及民意調査中心に委託した行政長官候補に関する世論調査の結果を掲載した。調査は選挙委選後の12~16日、1032人を対象に行われた。候補は曽長官、林鄭長官、葉劉氏、胡氏、それに前立法会議長の曽〓成氏の5人。支持率トップは曽長官で、前回調査(10月末)の28・4%から32・6%に上昇。2位は林鄭長官で、10・3%から23・9%に急上昇。梁長官が続投を断念したことで、その支持者を吸収した。以下、胡氏、曽氏、葉劉氏の順となる。上位2人について政治傾向別に支持率を見ると、民主派は52%が曽長官、9・9%が林鄭長官、親政府派は49・4%が林鄭長官、18%が曽長官、中間派は30・3%が林鄭長官、27・8%が曽長官となっている。ただし世論の支持とともに中央の本命が誰なのかも注視されている。(〓は金へんに玉)(執筆者:香港ポスト 編集部・江藤和輝 編集担当:サーチナ編集部)(イメージ写真提供:123RF)