大和総研経済調査部の主席研究員 齋藤尚登氏は5月27日にレポート「操業停止と能力削減は別物なのだが・・・」(全1ページ)を発表し、中国における過剰生産能力の削減が遅々として進まない背景を解説した。レポートの要旨は以下のとおり。

 2016年に入って、中国の鉄鋼価格が乱高下している。

 2011年夏には1トン当たり5000元を超えていた鉄鋼(鉄筋)価格は、景気減速による需要減退に伴い下落。2015年末には2000元を割り込んだ。2015年は粗鋼生産能力12億トンに対して、生産は8億トン(国内向け7億トン、輸出向け1億トン)にとどまり、過剰生産能力の削減が政策課題の一つとなっていた。こうしたなか、2016年2月には国務院が鉄鋼の過剰生産能力削減に関する意見を発表し、今後5年で1億トン~1.5億トンの過剰生産能力を削減するとした。

 現地ヒアリングによると、今後5年は生産能力を増やす新規投資は原則認めない方針が打ち出されたほか、生産能力削減に対するインセンティブが付与されるなど、今回の中央政府の本気度は高いとされている。

 中央財政は5年間で1000億元の特別奨励・補助資金を拠出し、過剰生産能力の解消に取り組む企業の従業員の再配置・再就職支援に重点的に充てるとしたが、財政部が発表した実施細則では、過剰生産能力をより早くより多く削減すると、より多くの特別奨励・補助資金が得られるといったインセンティブを地方政府に与えている。このため、地方政府の反応も早く、鉄鋼の一大生産拠点である河北省は、3億トンの生産能力のうち1億トンを削減する意向を示している。河北省だけで5年間の最低削減目標が達成される計算である。

 生産能力削減で需給がタイト化するとの思惑や、不動産開発投資の底打ち・反転などの好材料もあり(粗鋼生産は1月~3月の前年同期比3.2%減から4月には前年同月比0.5%増へと改善)、2月以降、鉄鋼価格は大きく上昇した。鉄鋼価格は4月26日には3150元の高値を付け、年初来で57.4%の上昇を記録した。

 しかし、その後、鉄鋼価格は反落し、5月24日は2345元と年初からは17.2%高、高値からは25.6%安の水準にある。行きすぎた価格上昇の反動に加え、操業を停止していた鉄鋼メーカーが、4月下旬までの価格上昇を受けて相次いで生産を再開したこともある。河北省のある鉄鋼メーカーは業績不振で電気代を支払うことができずに、昨年11月以降操業停止を余儀なくされたが、この4月に操業を再開したという。ゾンビ企業の復活である。

 当たり前のことだが、操業停止と生産能力削減は別物である。中国では少なくともこれまでは、これが曖昧だったところに過剰生産能力削減の難しさの一因があった。今回の政策では、実際に生産能力が削減されたかを第三者機関がチェックするとしているが、これが機能しなければ、市況が少し良くなると死んだふりをしていたゾンビ企業が復活し、生産能力の削減はままならないことになる。(情報提供:大和総研、編集担当:徳永浩)(イメージ写真提供:123RF)